怒りの刑事「探偵物語」(1951年)

フィルムノワール

探偵は出て来ませんよ

[原題]Detective Story
[製作年]1951[製作国]アメリカ
[日本公開]1953
[監督・製作]ウィリアム・ワイラー
[脚本]フィリップ・ヨーダン/ロバート・ワイラー
[原作]シドニー・キングスレー
[撮影]リー・ガームス
[音楽]ヴィクター・ヤング
[上映時間]103

主な登場人物

ジム・マクラウド刑事(カーク・ダグラス):
独善的な正義感を持つ刑事。容疑者に対して暴力も辞さない。

メアリー・マクラウド(エリノア・パーカー):
ジムの新婚の妻。夫を深く愛しているが秘密を抱えている。

その他の登場人物

万引き女(リー・グラント)
ルー・ブロディー(ウィリアム・ベンディックス):マクラウドの相棒刑事、人情派
スーザン・カーマイケル(キャシー・オドネル):姉ジョーイの代わりにアーサーの面会に来る
アーサー・キンドレッド(クレイグ・ヒル):金の使い込みで捕まった青年
チャールズ・ゲニーニ(ジョセフ・ワイズマン):強盗犯
ルイス・アボット(マイケル・アボット):チャーリーの相棒
エンディコット・シムズ(ワーナー・アンダーソン):シュナイダーの弁護士
カール・シュナイダー博士(ジョージ・マクレディ):婦人科の医師
モナハン(ホレイス・マクマホン):警部補、分署長
タミー・ジャコペティ(ジュラルド・モーア):メアリーの元カレ
ギャラガー刑事(フランク・フェイレン):電話番
ハッチ(グラディス・ジョージ):面通しの証人
ジョー・フェインソン(ルイス・ヴァン・ロッテン):新聞記者

あらすじ

NY21分署はいつも犯罪者でごった返していた。万引きをした女、強盗犯、会社の金を使い込んで捕まった青年、それぞれ担当がつき対応していた。医師のカール・シュナイダーの事件を担当している弁護士が、担当の刑事マクラウドではなく警部補に会いたいと言ってきた。弁護士はシュナイダーはマクラウドに会いたくないと言っているという。一方のマクラウドは結婚したばかりのメアリーと嬉しそうに子供の話をしていた。マクラウドは逮捕された青年アーサーを取り調べ、彼の彼女を巻き込むなという申し出を聞き入れず恋人であるジョーイを電話で呼び出した。その後警部補に呼び出され、弁護士と面会し、マクラウドのシュナイダー医師に対しするひどい暴行を非難した。医師に何か恨みでもあるのかという問いに、マクラウドは患者を殺していると主張する。マクラウドのシュナイダーへの激しい憎悪に対し恐怖を覚えるほどだった。一方温厚な刑事ルーはアーサーに向かって、君は息子に似ている何があった?と優しく声をかけるが、アーサーは何も答えなかった。そこに二人の強盗犯チャーリーとルイスが、被害者の夫人と一緒に連れて来られた。チャーリーは知らないと喚き散らすが、ルイスにマクラウド達が取り囲みチャーリーの犯行を白状させ、アジトに向かった。一方、デパートでバッグを万引き女は、意を決して姉の家に電話をし、義兄に姉には内緒で自分を迎えに来て欲しいと頼んだ。そこにスーザンがやって来て、姉のジョーイと連絡がつかないので代わりにやってきたという。二人は幼馴染で、姉のジョーイは美人でモデルをしており誰もが憧れているという。アーサーが彼女に貢ぐために金が必要だったのではとマクラウドが言うと、彼はそんなことをするはずないと訴える。そこでアーサーに面会させると、アーサーは会社の金に手をつけたと話し、スーザンに帰るように言う。メアリーの約束の為帰ろうとしたマクラウドの前に、シュナイダー医師が弁護士を伴ってやって来た。マクラウドはすかさずシュナイダーに、高額な預貯金は違法な堕胎の報酬だろうと詰め寄るのだが。

どんな映画?

1949年にシドニー・キングスレーが発表した戯曲を、「ローマの休日」(1953年)や「噂の二人」(1961年)、「コレクター」(1965年)などで有名な巨匠ウィリアム・ワイラー監督が映画化。カーク・ダグラス、エリノア・パーマーが主演し、エリノア・パーマーはこの演技でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。

ニューヨークにある21分署では
逮捕者でごった返しています。
刑事のマクラウドは犯罪者に非常に厳しく
自白のために暴力でも何でもありな人物
でも美人の新妻メアリーにはメロメロ
マクラウドは子供を欲しがっていました。

そんなマクラウドはどうしても
刑務所にブチ込みたい相手がいました
妊婦に違法な手術を施していたであろう
医師シュナイダーでした。

なぜそこまでマクラウドは
シュナイダー医師に執着するのだろう?

疑問に思った署長は…

どうしてもメアリーの過去を許すことができず苦悩するマクラウド

邦題が「探偵物語」となっておりますが、Detectiveは本来刑事と訳すべきところを探偵としてしまった、残念邦題の一つとなっております。

この映画の公開当時、警察官の殺害や妊娠中絶への言及はヘイズ・コードに引っかかるものでした。中絶に関しては曖昧な表現にし、警官殺しはコードの修正により許可を得ました。主人公の刑事マクラウドが執拗に追いかける、劇中ではシュナイダー医師が本当に違法な中絶医なのかは明らかにはされませんが、執拗なあまりに意外な事実が明らかになる皮肉な結果に、父親を恨みながら自滅していく主人公をカーク・ダグラスが熱演しています。 また、過去を持つ女性を演じたエリノア・パーマーが、弱々しく見えながらも、意志を持つ女性としてキッパリした態度を示し、難しい役を見事に演じていました。

犯罪者を許すか許せないのか?
妻の過去を許すか許せないのか?

事実に、許すも許さないもなく、ただ疑念を抱き続けてしまう自分自身を許せなくなるだけなのだと感じます。

スタッフ・キャスト

脚本はアメリカ合衆国出身のフィリップ・ヨーダン。1949年にジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督の「他人の家」の脚本を担当。この映画は1959年にエドワード・ドミトリク監督のより「折れた槍」としてリメイク。西部劇テイストにリメイクされた本作では、原案者としてクレジットされ、アカデミー賞原案賞を受賞しています。アンソニー・マン監督の「秘密指令」(1949年)、マーク・ロブソン・監督の「恐怖の一夜」(1950年)、ジョージ・マーシャル監督の「魔術の恋」(1953年)、バイロン・ハスキン監督エリノア・パーカーが出演していた「黒い絨毯」(1954年)、ニコラス・レイ監督の西部劇「大砂塵」(1954年)、ジュセフ・H・ルイス監督のフィルム・ノワール「暴力団」(1955年)、マーク・ロブソン監督の「殴られる男」(1956年)などの脚本を担当。1962年にはジョン・ウィンダムのSF小説「トリフィド時代」を映画化した「人類SOS!」で、脚色と製作総指揮を務めています。またバイロン・ハスキン監督の「宇宙征服」(1955年)でも脚色の一人として参加してます。多くの名作、SF作の脚本に参加されていますが、赤狩り時代に仕事ができなくなった脚本家の名義貸しをしていたことでも知られています。

マクラウド夫人を演じたのは美人女優のエリノア・パーカー。1948年に古典的ミステリー小説「白衣の女」の映画化「白いドレスの女」に出演。その後出演したジョン・クロムウェル監督の「女囚の掟」(1950年)で、その美しさと演技力が高く評価されました。同年にはロバート・ワイズ監督の「三人の秘密」(1950年)に出演。その後も「黒い絨毯」(1954年)、ニコラス・レイ監督の「黄金の腕」(1955年)、ロバート・ワイズ監督の「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)など徐々に主演から遠ざかってしまいましたが、晩年まで多くの映画に出演されています。

アーサーを慕うスーザンを演じたキャシー・オドネルはアメリカ合衆国の女優。1948年に24歳で当時47歳のロバート・ワイラーと結婚しています。1946年にウィリアム・ワイラー監督の「我等の障害の最良の年」で重要な役を得た後、1948年のニコラス・レイ監督の「夜の人々」でファーリー・グレンジョーと共にヒロインを演じています。1950年にアンソニー・マン監督のフィルム・ノワール「サイドストリート」に出演し、再びファーリー・グレンジャーと共演しています。

名無しですが存在感たっぷりだった万引き女を演じたのは、アメリカの合衆国の女優リー・グラント。この「探偵物語」が映画初出演でしたが、ブロードウェイの舞台でも演じた当たり役でした。この演技で、カンヌ映画祭で女優賞を受賞しています。そん後、赤狩りの煽りを受けてしばらく映画に出ることができなくなりましたが、1967年にノーマン・ジュイソン監督の「夜の大捜査線」で復活。1975年のハル・アシュビー監督の「シャンプー」で、アカデミー賞助演女優賞を獲得しています。2001年にはデイヴィッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」に出演されています。

強盗犯チャーリーを演じたジョセフ・ワイズマンは、カナダ出身の俳優。この映画に出演の後、1962年に出演した「007 ドクター・ノオ」で、ドクター・ノオを演じたことで非常に知られています。

まとめ

自分も許せなくて地獄行き

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