セッシューする?「チート」

ドラマ

実際に会うと思ったより背が高くて
びっくりする人がいます。

[原題]The Cheat [製作年]1915
[製作国]アメリカ
[日本公開]劇場未公開
[監督・製作]セシル・B・デミル
[脚本]ヘクター・ターンブル/ジーニー・マクファーソン
[音楽]ロバート・イスラエル(1994年)
[上映時間]59(DVD44)

主な登場人物

ヒシュル・トリ(早川雪洲):
日本人美術商の富豪。社交界に出入りしており人妻のイーディスに好意を寄せている。

イーディス・ハーディ(ファニー・ウォード):
リチャードの妻。社交界の花だが短絡的で浪費家。

その他の登場人物

リチャード・ハーディー(ジャック・ディーン):イーディスの夫、投資家。
使用人(阿部豊):アラカウに仕える日本人

あらすじ

日本人美術商の富豪ヒショル・トリはロング・アイランド社交界の支援者であり名士であった。彼には自身の所有物に鳥居型の焼印を押す趣味があった。ニューヨークの株式仲買人のリチャード・ハーディーには美しい妻イーディスがおり、愛称はバタフライ。しかしイーディスには浪費癖がありしばしばリチャードを悩ませていた。節約しろというリチャードを尻目にエディスはトリと遊び歩いていた。一方リチャードは妻を構わず投資に没頭していた。赤十字基金の会計係に指名されたイーディスは社交場で金持ちの夫人たちからせっせと金を集めた。リチャードが家に戻っても妻はおらず彼女が購入した高価なガウンが届き、挙句にはメイドに給金も渡していなかった。トリの車で送られて帰って来るイーディスに当然ながらいい気分のしないリチャードだが、イーディスはお構いなし。上機嫌で集金した1万ドルを壁の金庫にしまった。自宅のパーティーでリチャードは男にある株に全財産を投資したと話す。一方外でイーディスはトリに夫から浪費を諌められていると告げると、彼は自分が援助しようかと囁きかける。一方イーディスは男からリチャードが投資している会社ではなく自分が投資する会社なら2倍になると投資話を持ちかけられ、基金の金に手をつけてしまう。アラカウ邸で赤十字慈善舞踏会が行われ、基金を明日ベルギー人に送ろうという話になった。

どんな映画?

この映画は1915年にセシル・B・デミルが監督し、日本人俳優である早川雪洲を一躍スターに押し上げた作品です。早川雪洲が演じたのは日本人骨董商のヒシュル・トリでしたが、当時日本への配慮がありリバイバル上映された際、ビルマ人の象牙王ハカ・アラカウに字幕が変更されています。現在日本で入手できるDVDはこのアラカウ版になります。

裕福な日本人骨董商のヒシュル・トリは
ロングアイランドの 社交界に出入りしています。
トリには鳥居の焼きごてで自分の所有物には必ず刻印を
するという趣味がありました。

そんなトリが懇意にしているのが 社交界の花イーディス
当然白人女性なのですが彼女も
トリのミステリアスな風貌とお金にまんざらでもないご様子
頭が足りなそうなイーディスは夫の苦言も
聞き入れずトリと遊びまわっていました。

そんな中イーディスはある男から投資の話を持ちかけられます。
普段から夫に無駄遣いを咎められていたイーディスは
基金の為集金していた1万ドルを使い込んでしまいます。

結局投資は失敗 窮地に立たされたイーディスは
トリから1万ドルを借りることにするのですが…

妻イーディスを追ってトリの屋敷に出向いたリチャード
障子の向こうでは撃たれたトリの姿が!

タイトルのチートは「裏切り」や「欺く」という意味。裏切っているのはあくまで白人の夫人イーディスですが、その後のトリが夫人に対して肌を露にさせ背中に焼印をする行為は非常にショッキングで残虐的でした。ラストは人種差別的要素も加わり、この映画は当時の日本でも国辱的映画として上映されることはありませんでした。しかし、クローズアップの多様、オーバーアクションによるドラマティックな演技は、映画の芸術性を高め、性的、スキャンダラスな内容は話題を呼び映画は大ヒット。早川雪洲は一躍知られることとなり、クールな美貌とサディスティックな演技は当時のアメリカ人女性たちに熱狂的に受け入れられたそうです。

この映画は1938年にフランスでマルセル・レルビエマルセル・レルビエ監督が「Forfaiture」としてリメイクされ、再び早川雪洲が主演しました。

スタッフ・キャスト

監督はサイレント映画時代からの巨匠セシル・B・デミル。1915年にサイレント映画の美男子俳優の筆頭格ウォーレス・リードを主演に「カルメン」を監督、同年に発表した「チート」が大ヒット。数々のサイレント映画を発表し、1920年代に入るとデミル王国と言われるほどパラマウントで絶大な地位を築き上げます。乱行シーンで有名な1922年の映画「屠殺者」、この映画は同棲同士のキスを始めて映像化した作品としても知られています。翌年には「十戒」(1923年)2部構成で1部では旧約聖書でお馴染みのモーゼの十戒を描き、2部では現代を描いています。この映画は1956年に「十戒」自らリメイクしチャールトン・ヘストンがモーゼを演じています。また、1927年に発表した「キング・オブ・キングス」ではキリストが十字架に磔られる前の数日間を描いています。「十戒」を「キング・オブ・キングス」は1932年に発表された「暴君ネロ」と合わせてデミルの聖書映画三部作と言われています。1934年にスクリューボール・コメディで人気を博した女優クローデット・コルベールをクレオパトラ役に「クレオパトラ」を発表、1939年に「平原児」や「大平原」などの西部劇を監督、製作されています。40年代に入るとかつての勢いは無くなってしまいますが、1952年に監督、製作した「地上最大のショウ」は世界最大のサーカス団を舞台にジェームス・スチュワートやチャールトン・ヘストンなどのオールスターキャストで様々な人間模様を描いている大作になっており第25回アカデミー賞を受賞しています。1950年にはビリー・ワイルダー監督の名作映画「サンセット大通り」にご本人役でご出演されています。

悪徳日本人美術商(DVD版ではビルマ人)を演じたのはモノホンの日本人、早川雪洲。大正時代にアメリカに渡り、ウォレス・リードやルドルフ・ヴァレンチノより前にハリウッド最初のセックス・シンボルはこのお方!当時の日本人としては高身長で170センチを超えておられたのですが、共演女優よりも大柄に見せるため台に乗って演技されていました。ここから映画やテレビで台に乗ることを「セッシュウ」とか「セッシュー」すると言われるようになったことは有名なお話。また、当時のアメリカで白人女性からの人気が高く、雪洲の歩く先にあった水溜りを避ける為、アメリカ人の夫人が自らの高価な毛皮のコートを水溜りの上に敷いて雪洲を歩かせたと言うエピソードは、クイズ番組でも紹介されました。絶大な人気を誇った雪洲でしたが、女性関係などのスキャンダルが多く人気は失墜。その後フランスに活路を見出し渡仏。第二次世界大戦後にはハンフリー・ボガートに請われて「東京ジョー」(1949年)に出演する為再び渡米。その後もデヴィッド・リーン監督の「戦場にかける橋」(1957年)やメル・フェラー監督、オードリー・ヘプバーン主演の映画「緑の館」(1959年)などに出演。国際的にも活躍されました。

どうしょもないヒロイン、イーディスを演じたファニー・ウォードはアメリカ合衆国で舞台女優として活躍。この映画に出演時すでに40代になっていたウォードですが、モノクロ映画の効果を差し引いても非常に若く見えたそうです。舞台での人気が低調になり始めた頃に「チート」に出演し、そのショッキングな内容からセンセーションを巻き起こしました。夫役のジャック・ディーンは実際にファニー・ウォードの当時の夫だったそう。また、その若々しいイメージを利用して美容系のお店をパリに出していたそうです。

まとめ

焼きごてで地獄行き

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