小間使は見た!「小間使の日記」(1964年)

ドラマ

日記は3日以上続いたことは ありません。

[原題]Le journal d’une femme de chambre
[製作年]1963[製作国]フランス・イタリア
[日本公開]1966
[監督・脚本]ルイス・ブニュエル
[脚本]ジャン=クロード・カリエール
[原作]オクターヴ・ミルボー
[製作]セルジュ・シルベルマン
[上映時間]
97

主な登場人物

セレスティーヌ(ジャンヌ・モロー):
パリでメイドをしていたが、田舎町のお屋敷で働く32歳。人目を引く美人。

その他の登場人物

モージュ(ダニエル・イベルネル): お屋敷の隣の退役軍人。
モンテーユ(ミシェル・ピコリ):お屋敷の主人。女好き。
モンテーユ夫人(フランソワーズ・ルガーニュ):モンテーユの妻
ジョゼフ(ジョルジュ・ジェレ):屋敷に15年務める下男
ムッシュ・ラブール(ジャン・オゼンヌ): 夫人の父親。女の靴フェチ
司祭(ジャン=クロード・カリエール):モンテーユ夫人が夫婦関係を相談する。

あらすじ

パリからフランスの片田舎にやってきた美しい女中のセレスティーヌは、下男のジョゼフの馬車で小修道院邸に向かった。お屋敷ではモンテーユ夫人が事細かに注意事項を述べ、セレスティーヌには父親であるラブール氏の世話をすることだと伝えられた。屋敷の女中たちは噂話が大好きで、モンテーユ夫妻には子供がおらず夫婦仲も芳しいものではなかった。セレスティーヌは、奥様が扱いに気をつけてと言われていたランプを、ジョゼフが割り込んできたせいで割ってしまう。夫人の父親であるラブール氏に部屋に呼び出され、お茶を運んだセレスティーヌ。ラブール氏は彼女の名前を聞いてから、ちょっと長いのでマリーにする。自分のメイドは代々マリーと呼んでいると話す。戻ろうとするセレスティーヌを呼び止め本を朗読させた。すぐにラブール氏はセレスティーヌのふくらはぎを触りたいと言ってくる。彼女も淡々と受け入れ、ふくらはぎを触ったラブール氏は今度は彼女の足のサイズを尋ねる。セレスティーヌは突然のことに聞き返しながらも、22.5と答えた。するとラブール氏はクローゼットを開け、ずらりと並んだ女性用の靴から「風のバラ」と名付けた編み上げブーツを選び、夜に自分の部屋にくる時はこれを履いて来るようにと言われる。ドアがノックされるとラブール氏はすぐにクローゼットの扉を閉めた。奥様が入ってきてランプのことでセレスティーヌを責めたが、ラブール氏が庇ってくれた。セレスティーヌがお屋敷の庭を散歩していると、隣から石を投げつける人物がいた。垣根を覗き込むと、退役軍人の男モージュと愛人の小間使いローズがおり、モンテーユは最低の男と罵った。だいぶふくよかで気の良さそうなローズは、セレスティーヌにモンテーユは女中を孕ませては、子供が生まれたら金を渡して追い出していると話す。早速セレスティーヌに言いよるモンテーユ。セレスティーヌは奥様に言うと主人をかわした。使用人の食堂ではクレールと言う少女がおり、セレスティーヌは特に彼女を可愛がっていた。ジョゼフは右翼の反ユダヤ主義の活動に傾倒していた。

どんな映画?

1900年にフランスの作家オクターヴ・ミルボーが発表した小説を、スペインが生んだ奇才ルイス・ブニュエル監督が時代背景を1930年代半ばに設定して映画化。主演の小間使いセレスティーヌをジャンヌ・モローが演じています。

パリでメイドとして働いていたセレスティーヌは
田舎のお屋敷にやってきます。
そのお屋敷には神経質な女主人と
その夫で狩好き、女好きのモンテーユ氏
女主人の父親であるラブール氏
セレスティーヌの主な仕事は
ラブール氏のお世話でした。

ラブール氏は無類の靴フェチ
クローゼットに女性用のブーツを並べ
セレスティーヌに履かせて歩かせます。
セレスティーヌも特に嫌悪感を露わにせず
淡々とラブール氏の要求を受け入れます。
ラブール氏はセレスティーヌが履いたブーツを脱がし
嬉々として自室にこもってしまいます。

その後ベッドの上で
ブーツを握りしめながら裸の
ラブール氏の死体が…

セレスティーヌの足からブーツを脱がすラブール氏と退屈そうにしているセレスティーヌ

この映画はジャンヌ・モロー35歳の作品で、美貌とアンニュイな演技で一番脂の乗っていた頃のような気がします。 ルイス・ブニュエル版セレスティーヌのキャラクターとして、主人の要求を淡々と受け入れながらもブルジュア階級をどこか軽蔑、同僚であり同じ階級のジョセフを嫌悪しながら受け入れたり、最終的に右派の愛国主義者モーゼ氏と結婚したり、映画を見終わった後女主人公の行動の一貫性のなさに、多少困惑を感じると思います。

原作のセレスティーヌは、モーゼ氏のプロポーズを嫌悪感と共に拒絶し、少女殺しの犯罪者である可能性が強いジョセフを受け入れ、彼の為に泥棒の共犯にもなっています。ですが、ブニュエル監督は、セレスティーヌに、自分が可愛がっていた少女が殺されたことにより、自ら屋敷に戻り殺人犯を追求する役割を与えています。ジョセフを受け入れたフリをして、証拠を探ろうとします。この試みは、結果的に失敗に終わってしまい、セレスティーヌなりの正義を貫かせながらも、その後に来る無力感を描いているように思います。

原作者のミルボーが改作を加え小説を完成させた中で、1894年に起こったドレフュス事件が影響していると言われています。ドレフュス事件は、フランス軍で起こったユダヤ人大尉ドレフュスに対する有名な冤罪事件です。この事件でフランス社会に根強くある反ユダヤ主義が露呈し、世論は二分化したと言われています。 ブニュエル監督があえて時代背景を1930年代半ばに設定したのも、第二次世界大戦の影が徐々に忍び寄る社会で、反ユダヤ主義を堂々と掲げる人物が助かる皮肉を、描いているのかもしれません。 1930年にルイス・ブニュエル監督がフランスで発表した映画「黄金時代」が、右翼により劇場を爆破された事件により、その後50年間公開禁止の憂き目に遭っています。そこからスペインに戻り、メキシコを経て再びフランスに招かれて監督した作品がこの「小間使の日記」となります。以降カトリーヌ・ドヌーヴ主演で「昼顔」(1967年)や「哀しみのトリスターナ」(1970年)などの作品を監督されています。 また、「黄金時代」でも、女性が足をべろべろ舐めるシーンがあり、ブニュエル監督のフェチが発揮されております。

この映画は、ブニュエルがその後多く作品を手掛けるシルベルマンや、カリエールとの初作品となっています。
特にジャン=クロード・カリエールは、司祭としても登場し、モンテーユ夫人に
「週2回は多すぎます!」
と熱弁されていました。

1946年にジャン・ルノワールがポーレット・ゴダール主演で「ジャン・ルノワールの小間使の日記」として映画化しています。 また、2015年にもブノワ・ジャコ監督が「あるメイドの秘かな欲望」として映画化しています。
「小間使の日記」は1916年のロシア版と合わせて、現在までに4回映画化されております。

「小間使の日記」と言いながら、ルイス・ブニュエル監督版のセレスティーヌが、日記を書くシーンが一度もないというところも中々オツなものです。

スタッフ・キャスト

フランス出身の脚本家兼俳優のジャン=クロード・カリエールは、後期のルイス・ブニュエル監督作品には欠かせない脚本家として知られています。1963年からルイス・ブニュエル監督の「小間使いの日記」で俳優としても参加し、1967年にカトリーヌ・ドヌーヴ主演の「昼顔」、1969年の「銀河」、1972年「ブルジュアジーの秘かな愉しみ」、1974年の「自由の幻想」、1977年「欲望のあいまいな対象」など現在でもカルト的人気を誇る作品群の脚本を担当しております。他の監督作品として、ジャック・ドレー監督、アラン・ドロン、ロミー・シュナイダー主演の「太陽が知っている」(1969年)、同監督、アラン・ドロン、ジャン=ピエール・ベルモンドダブル主演のヒット作「ボルサリーノ」(1974年)の脚本に参加。作家ギュンター・グラスの小説をフォルカー・シュレンドルフ監督の「ブリキの太鼓」(1979年)にも参加してます。1986年には大島渚監督の珍作シャーロット・ランプリング主演の「マックス、モン・アムール」で、原案・脚本を担当しています。また、フィリップ・カウフマン監督の文芸映画「存在の耐えられない軽さ」(1988年)で、カウフマン監督と共に脚本に参加しており、晩年においてもジョナサン・グレイザー監督、ニコール・キッドマン主演の「記憶の棘」(2004年)などの作品にも名前を連ね、昨年89歳でお亡くなりになっています。

主演のジャンヌ・モローは、フランスを代表する女優の一人です。60年代のジャンヌ・モローは坊主にされる役で、マーティン・リット監督の「五人の札つき娘」(1960年)の出演を皮切りに、毎年コンスタントに映画に出演。ピーター・ブルック監督の「雨のしのび逢い」(1960年)、倦怠夫婦を演じたミケランジェロ・アントニオーニ監督の「夜」(1961年)、エキセントリックモテモテガールを演じたフランソワ・トリュフォー監督の「突然炎のごとく」(1962年)、男を翻弄する悪女役、ジョセフ・ロージー監督の「エヴァの匂い」(1962年)、ギャンブル狂の女を演じたジャック・ドゥミ監督の「天使の入江」(1963年)、腹黒女教師を演じたトニー・リチャードソン監督の「マドモアゼル」(1966年)、富豪のアンニュイ夫人を演じたトニー・リチャードソン監督の「ジブラルタルの追想」(1967年)、殺人花嫁を演じたフランソワ・トリュフォー監督の「黒衣の花嫁」(1968年)など美しく謎めいた女性を演じ、ヌーベルヴァーグのミューズとして、その名を不動のものとしました。

ジャンヌ・モローとは対照的に年増のメイドを演じたムニは、後期のルイス・ブニュエル監督作品にたびたび登場しています。

まとめ

メイドは地獄を見ている

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