華やかな仕事ほど
舞台裏はドロドロだったりします。
[原題]Variete’
[製作年]1925[製作国]ドイツ
[日本公開]1927
[監督・脚本]E・A・デュポン
[製作]エーリッヒ・ポマー
[原作]フレデリック・ホランダー
[撮影]カール・フロイント他
[上映時間]57
主な登場人物
ステファン・ハラー(エミール・ヤニングス):
囚人番号28番。殺人の罪で10年間服役中の元空中ブランコ乗り。
ベルタ(リア・デ・プッティ):
ステファンの若い妻。
その他の登場人物
アルティネッリ(ワーウィック・ウォード):新しいパートナーを探している若く人気のある空中ブランコ乗り。
あらすじ
刑務所の中、囚人番号28番が保釈審議のため呼び出された。彼は10年間事件についてかたくなに供述を拒んでいた。しかし彼の友人の出した嘆願書もあり、重い口を開き始めた。28番はかつてステファン・ハラーと言い、腕のいい空中ブランコの曲芸師だった。ベルリンの謝肉祭の時、遊園地の出し物の中でハラー団長夫妻の空中ブランコは最高の曲芸と評判だった。披露が終わり、二人は部屋に戻るとステファンは妻ベルタの肩をはだけさせタオルで拭いてやり力強くキスをする。妻にぞっこんのステファンはかいがいしく面倒をみていた。新しいウィンター・ガルテンの開園の日、多くの見世物小屋が並び芸人たちがヨーロッパ中から集まって来た。その中にアルティネリ兄弟の空中曲芸で人気があったアルティネリがいたが、兄が曲芸中落下して亡くなってしまったため芸をすることができなかった。大きな劇場でのレヴューが始まり観客席から眺めるアルティネリ。小人のダンス、裸バレエ(真剣にオペラグラスで見つめる人々)、中国人皿回し、オットセイのバランス、など様々な曲芸があったがアルティネリには不快だった。しかしアルティネリが新しいパートナーを探せれば契約しても良いと言われ評判のハラー夫妻に申し出る。妻ベルタは有名で若く男前なアルティネリを見てパートナーを希望する。ステファンはベルタの穴の空いたストッキングをつくろいながらしぶしぶ承諾する。三人の曲芸は大成功し、観客から喝采を浴びる(衣装にはどくろマーク)。アルティネリはベルタに指輪を送り、みんなを食事に誘う。ベルタに関心をもったアルティネリはステファンがカードに興じている間、うまくベルタを自分の部屋に誘いこみキスをする。
どんな映画?
1920年代のドイツではロベルト・ヴィーネ監督の「カリガリ博士」(1920年)、F・W・ムルナウ監督の「吸血鬼ノスフェラトゥ」フリッツ・ラング監督の「メトロポリス」に代表されるドイツ表現主義の中にひっそりと名前が上がる映画です。
前者の前衛的、幻想的な雰囲気のある映画と違って、サーカスを舞台にした愛憎劇で内容は現実的です。
ただ、当時としては画期的な空中ブランコのカメラワークや、サーカスの舞台セットの建築物の迫力、ノワール的雰囲気はドイツ表現主義の名作の一本です。映画自体も大変ヒットし、1927年の日本でも異例のヒットを記録したそうです。
主人公ステファンは今は囚人第28号と呼ばれています。
刑務所長はステファンの友人からの
嘆願書をもとに今まで10年間も供述してこなかった事件のいきさつを語り始めます。
謝肉祭で賑わうベルリン
ステファンは若い妻ベルタとともにサーカス団を率いる団長でした。
中でもベルタと行う空中ブランコショーは大変な話題となっていました。
ステファンは年甲斐もなく若い妻にメロメロ。
甲斐甲斐しく尽くします♪
幸せなステファン。
そんな中、兄弟ブランコ乗りとして名声を得ていたアルティネリという男がステファンのショーに目をつけます。
パートナー契約を結びたいというのです。気乗りのしないステファンに
有名になれると飛びつくベルタ。
渋々引き受けるステファンでしたが
3人のショーは大成功を収めます。
ですが次第にベルタは若く男前のアルティネリに惹かれていき…
ドクロマークのコスチュームのベルタとアルティネリ。
タイトルの「ヴァリエテ」はドイツ語で曲芸やダンス、動物ショーを観せるバラエティーショーやその団体、曲芸団を意味します。
この映画は時代的にサイレントですが、セミヌードがあり、性的描写も評判を呼びました。
現在観られるものは前半の貧乏芸人ステファンが、連れてこられたベルタに一目惚れ。苦労を共にしていた古女房を捨てる部分が丸っとカットされていて、結果的に回想シーンぽくなっています。
ベルタを演じるリア・デ・プッティは人気を呼びヴァンプ女優として世界的に注目されました。ヴァンプ女優とは男を狂わせ堕落させる「毒婦」を意味し、「ヴァンパイア」にかけた造語ですが、フィルムノワール で言うファムファタール(運命の女)にあたると思われます。
この映画のベルタは特に何かするわけでもなく意図的な悪意は何も感じられず、ただぼんやりしただけの存在ですが、妙に小悪魔的な色っぽさがありそれに中年男が狂わされて行きます。かえって悪意のない浮気心の方が厄介なのかもしれません。そして迎える悲劇的な3画関係の結末。
人生の悲喜交交、転落を描いた初期ドイツ映画の傑作です。
スタッフ・キャスト
監督のE・A・デュポンはドイツ映画界のパイオニアの一人。1925年に製作したこちらの「ヴァリエテ」で世界的な評価を受けました。その後も
イギリスで、中国系アメリカ人女優のパイオニア、アンナ・メイ・ウォンが出演した「ピカデリー」(1929年)などで高い評価を受けました。
主演の若い妻に熱を上げるブランコ乗りを演じたエミール・ヤニングスですが、スイス出身で20世紀初頭にドイツやハリウッドで活躍しました。この映画ではないですが第一回アカデミー賞主演男優賞を獲得した人物として知られています。「ヴァリエテ」に出演する前年にF・W・ムルナウ監督の「最後の人」に主演。元祖便所めし(?)を披露し、サイレントのほとんど文字による説明が無い映画で、演技力は高く評価されました。1930年にはジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の「嘆きの天使」に、マレーネ・ディートリヒ扮する踊り子に骨抜きにされて身を滅ぼす教授役を熱演しております。強面のおっさんが若い女で身を滅ぼす役がホントにマッチしておりまして。
夫を破滅させる年若い妻を演じたリア・デ・プッティはハンガリー出身の女優ですが、この映画で一躍有名になりました。アメリカに渡りハリウッド映画界の父、D・W・グリフィスの「サタンの嘆き」(1926年)に出演しました。ちなみにヨーロッパ公開版はトップレスだったそう。その後は鳴かず飛ばずで再起をかけるも、鳥の骨が喉に刺ささっための治療に失敗し感染症にかかり、ニューヨークの療養所で34歳の若さで亡くなりました。その時の所持金はほんのわずかだったそうです。
まとめ
嫉妬に狂って地獄行き
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