神父殺し「影なき殺人」

犯罪

人相や経歴だけで疑われたら
たまったもんじゃありません。

[原題]Boomerang!
[製作年]1947[製作国]アメリカ
[日本公開]1947
[監督]エリア・カザン
[脚本]リチャード・マーフィ
[ナレーター]リード・ハドレー
[音楽]デヴィッド・バトルフ
[上映時間]88

主な登場人物

ヘンリー・L・ハーヴェイ(ダナ・アンドリュース):
州検事。担当する神父殺しの容疑者ウォルドロンの犯行に疑問を持ち独自に調査を始める。

ジョン・ウォルドロン(アーサー・ケネディ):
神父射殺事件の容疑者。休職中の復員兵。

その他の登場人物

マッジ(ジェーン・ワイアット): ヘンリーの妻
ハロルド・F・ロビンソン(リー・J・コップ): 警察署長
アイリーン・ネルソン(カーラ・ウィリアムズ):証人のウェイトレス
デーヴ・ウッズ(サム・レヴェン): モーニング・レコード記者
T・M・ウェイド(テイラー・ホームズ): モーニング・レコードの発行人
マック・マクレアリー(ロバート・キース): ヘンリー友人
ポール・ハリス(エド・べグリー): 友人
ジム・クロスマン(フィリップ・クーリッジ): 神父に告白する
ホワイト警部補(カール・マルデン)
容疑者の1人(アーサー・ミラー):ノンクレジット

あらすじ

コネチカットの小さな町、ランバート神父は町の人々に信頼され尊敬されている人物だった。いつも通り、夜中人々が行きかう道路を歩き途中で立ち止まりパイプにたばこを詰めようとしていたところを後頭部を拳銃で一撃される。男はその場をすぐに立ち去り多くの人たちが倒れた神父を囲った。目撃者は7人おり「犯人は黒いコートに白い帽子、32口径の銃が使われた」。目撃者が多数いたにもかかわらず犯人を特定できなかった。神父は街にはかかせない人物で告白に対しても適切な判断を下し、中にはジムのように療養所をすすめることもあった。ジムはこのことを母親や他の人間にばれることを恐れていた。署長のロビンソンは州検事のハーヴェイに会いいらだちを隠せなかった。これに「モーニング・レコード」を発行する新聞社の記者デーヴは警察も行政もお手上げの様子をおもしろおかしく書きたて発行人のウェイドも満足していた。これに業をにやした行政側の人々や友人のマックはハーヴェイ検事の元を訪れ対応を画策するが、州議会は警察への非難を決議し警部部長が不当と声明を発表と新聞に書きたてられた。ロビンソンは警部部長に叱責を受けやめると言ったがハーヴェイが思いと留まらせた。しかし焦った警察は警部補のホワイトを中心に怪しいと思われる人物を手当たり次第逮捕した。とうとう容疑者の男がオハイオで逮捕され目撃者の面通しでつかまったが、ロビンソンは確信が持てなかった。容疑者は復員したばかりのウォルドロンで寝ずに尋問を繰り返し疲労していたが殺人を必死で否認していた。しかし証人としてウェイトレスのネルソンと言う女が自分を棄てた腹いせにウォルドロンに不利な証言をして帰っていく。うなだれるウォルドロンにロビンソンもいろいろ大変だなと声をかける。

どんな映画?

この映画はコネチカット州ブリッジポートで実際に起きた神父殺人事件を元に、冤罪で逮捕されてしまった容疑者の無実を証明する州検事の姿をセミドキュメンタリー・タッチで描いています。

オープニングで実在の場所で撮影され登場人物も実在と語られていますが、実際に多くはコネチカット州スタンフォードで撮影されたそうです。

この町で誰からも信頼されているランバート神父が路上で何者かに後ろから射殺されます。
目撃者が多数いたにもかかわらず
犯人は逃走。
マスコミに煽られ、
署長のロビンソンや検事のハーヴェイは苛立ちを隠せませんでした。

とうとう行政からも圧力がかかり
犯人逮捕に躍起になってしまった警察は目撃証言の黒いコートと白い帽子だけで次々に逮捕。
たまったもんじゃありませんが
とうとう容疑者が絞られます。

逮捕されたウォルドロンは警察からの執拗な取り調べにより自白を強要。
そして悪いことにウォルドロンに恨みのあるウェイトレスが証人になり、朦朧とする中署名させられてしまいます。

項垂れるウォルドロンに面会するハーヴェイ検事。
証拠となる銃を持っていたことや証人たちが皆彼を犯人だと述べていることからハーヴェイは確信していたのですが、実際彼に会ってみると

ほんとに彼がやったのかな?
と疑問が出てくるのでした。
そして裁判が始まり…

多くの人が往来する夜の町で至近距離から撃たれる神父さん。

実際の事件は1924年にコネチカット州ブリッジポートの劇場近くを歩いたヒューバート・ダーメ神父が左耳を後ろから撃たれ即死。容疑がかけられたのは当時無職の復員兵ハロルド・イズラエルという若者でした。 
信頼される神父の殺害で町の人の衝撃が大きく当時の新聞は犯人逮捕に、警察に圧力をかけるようになりました。そのため犯人逮捕に躍起になった警察は人相が悪く貧しいイズラエルを逮捕。しかし自白を強要されたとして検察官のホーマー・スティル・カミングスによって不起訴となった事件です。映画のラストに述べられていますが、この後カミングスはルーズベルト大統領によって初の司法長官に選ばれた人物です。
ちなみに、この映画の後、1950年代に目撃者がはっきりと犯人はイズラエルではないが、自分の身の危険から犯人を言う事はできないとして、現在でも真犯人は捕まっていません。

法廷劇として、冤罪を追求するヘンリーの語り口は理想的で痛快です。

スタッフ・キャスト

実在の検察官を演じたダナ・アンドリュースは1944年に出演した「ローラ殺人事件」の死美人に恋する刑事役で知られています。それ以後、「ローラ殺人事件」と同じくオットー・プレミンジャー監督の「堕ちた天使」(1945年)、ウィリアム・ワイラーの名作戦争映画「我等の生涯の最良の年」(1946年)、マーク・ロブソン監督の「愚かなり我が心」(1949年)、再びオットー・プレミンジャー監督の「歩道の終わる所」(1950年)、1956年にはフリッツ・ラング監督の「口紅殺人事件」「条理ある疑いの彼方に」に出演し1950年代にかけて大変活躍されました。しかしアルコールの問題が多く俳優としてのキャリアは徐々に衰退していったそうです。

検察官ハーヴェイを支える妻を演じたのがジェーン・ワイアットはアメリカ出身の女優さん。キャリアの初期ではフランク・キャプラ監督の冒険ファンタジー映画「失われた地平線」(1937年)でシャングリラの住人の美しい娘を演じて広く知られるようになりました。また、ノワール映画である「落とし穴」(1948年)でディック・パウエルの妻役を演じていますが晩年はテレビ映画やB級作品の出演が多かったです。

犯人逮捕に焦る警察署長にリー・J・コップ。相変わらず強面で悪そうな雰囲気があり多くの悪役やギャング役で出演されています。1949年にジュールズ・ダッシン監督のフィルム・ノワール「深夜復讐便」で悪徳買付人を演じ、ニコラス・レイ監督の「暗黒街の女」(1958年)ではマフィアのボスを演じています。

神父殺しの容疑をかけられる若い復員兵を演じたアーサー・ケネディは晩年まで多くの西部劇や戦争映画などの悪役として活躍。デコの広いどちらかというの悪そうな面立ちで犯罪者役が多く、その風貌のせいでこの映画でも疑いをかけられてしまいますが。1949年のフィルム・ノワール「窓」で少年の父親役を、「怒りの河」(1952年)や「ララミーから来た男」(1955年)などの西部劇でジェームズ・スチュアートの敵役で出演。また1966年のリチャード・フライシャーのSF映画「ミクロの決死圏」では体の中に入られる博士を演じています。

その他の出演者として「欲望という名の電車」(1951年)や「波止場」(1954年)などの出演で有名なカール・マルデン。これが映画デビュー作となるエド・べグリー。翌年にはアナトール・リトヴァク監督の「私は殺される」に出演し、1957年の「十二人の怒れる男」で陪審員10番を演じています。また「セールスマンの死」やマリリン・モンローの夫であったことでも有名な劇作家アーサー・ミラーがちょこっと出演されています。

まとめ

冤罪で地獄行き

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