通り魔的犯罪が世の中で一番恐ろしいです。
[原題]¿Quién puede matar a un niño?
Who Can Kill a Child?/Island of the Damned
[製作年]1976 [製作国]スペイン
[日本公開]1977
[監督・脚本]ナルシソ・イバニェス・セラドール
[原作]ファン・ホセ・プランス
[音楽]ワルド・デ・ロス・リオス
[上映時間]107
主な登場人物
トム(ルイス・フィアンダー):
バカンスにやって来たイギリス人生物学者。妻が妊娠中。
エヴリン(プルネラ・ランサム):
トムの妻。3人めの子供を妊娠中。
その他の登場人物
少女の父親(アントニオ・イランソ):島の住人
あらすじ
イギリス人生物学者のトムは身重の妻エヴリンを連れてスペインの町にバカンスにやってきた。町は祭りで賑わい子供たちがピニャータ割りを楽しんでいた。夫婦にはすでに二人子供がいるので今回は3人目の子供だった。トムがイタリアの映画「甘い生活」で何不自由なく生活していた男が妻と2人の子供を射殺するシーンがあったとエヴリンに話す。エヴリンはイタリア人はファシストね!と述べる。二人はアルマンソーラに向かい、島に着くと子供たちが釣りをしていた。話しかけるがにやついているだけで何も答えない。気味悪く思った二人だが、そのままレストランに入る。しかし店はチキンのグリルが回ったままで誰もいない。トムはエヴリンを残し人を探しに行く。突然電話がかかって来るがエヴリンが出ても何も答えない。店に女の子がやってきてエヴリンに笑顔を見せ大きくなったおなかに触った。少し不気味に感じるエヴリンだが子供のすることなので黙っていた。トムとエヴリンは宿を探しに行きホテルに入るが誰もいない、女の子が通りかかったので声をかけるがにやにやするだけで何も答えないで走って逃げていった。女の子は通りの曲がり角にいた老人を笑いながら杖でたたき殺した。
どんな映画?
「誰がこどもを殺せるか?」と言う物騒なタイトルを持つこの映画は、そのショッキングな内容から長らく伝説的なカルトホラー映画とされています。
冒頭の8分間世界の紛争による犠牲者の映像が流れます。アウシュヴィッツ、朝鮮戦争、インドシナ戦争、ビアフラ戦争など、どれも子供が理不尽に犠牲になっている姿です。
これらのシーンが一体何を示唆しているのか?
子どもたちが無邪気に遊ぶスペイン、ベナビスの海水浴場。
そこに女性の遺体が浮かんでいます。
女性は何者かに刺されて殺害されたようです。
一方バカンスにやって来たトムとエヴリン夫妻
エヴリンは妊娠中でお腹もだいぶ大きくなっています。
街はお祭りで大変賑わっています。
子どもたちは、紐で吊るしたくす玉を棒でたたいて割ると中からキャンディなどが
落ちるというピニャータ割りで盛り上がっています。
幸せなはずの二人。
そんなトムが話すのは、1960年にイタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の映画
「甘い生活」の中に登場する主人公のゴシップ記者の友人の話です。
美しい妻とかわいい二人の子供を持つ幸せを手に入れていると思っていた男が、
ある日二人の子供を射殺して自分も死ぬというショッキングな事件を起こします。
トムには漠然とした不安感が漂います。
夫妻はそこから船で4時間も離れたアルマンソーラという
まだ観光地化されていない島に向かいます。
島に着くと子どもたちばかり。
街での喧騒が嘘みたいに静まりかえっています。
どの店に行っても大人の姿が見当たりません。
大人は一体どこへ?
杖の老人から杖を奪い、笑いながら老人を叩き殺す少女の姿が!
ヒッチコック監督の「鳥」(1963年)へのオマージュ的作品と言われるこの映画、「鳥」においてもある日突然鳥が何の脈絡もなく人を襲い始めると言うもの。「ザ・チャイルド」では子供たちが突然大人を襲い始め、全く理由が示されない恐怖感があります。冒頭の子供が犠牲になるシーンからも子供による大人への復讐と捉えられる部分もありますが、何の理由もないところが一層行き場のない恐怖感を引き立てています。
また、戦争や飢饉など犠牲になるのはいつも子どもたち。
こんな世の中に子供を持つことが本当に子供にとって幸せなのだろうか?
また、大人が子供を所有物のように扱い生死までもコントロールしようという、大人のエゴに対する批判も描かれているのではないでしょうか。
子供が大人を襲うといえばスティーヴン・キングの短編小説で「トウモロコシ畑の子供たち」と言う作品がありますが、こちらもカップルが子供たちの犠牲になりますね。
2006年に30周年特別版DVDが発売されていましたが、めでたく公開45周年特別版が4Kリマスターで発売されています。
また、2012年にマキノフ監督が舞台をスペインからメキシコに移して「ザ・チャイルド」をリメイクしています。
スタッフ・キャスト
監督はウルグアイ生まれのナルシソ・イバニェス・セラドール。スペインで映画監督として活躍し1969年に「象牙色のアイドル」を監督。この映画はドイツ人のベテラン女優リリー・パルマーが怪ママを演じ、その息子を「早春」(1970年)に出演していたことで日本でもアイドル的人気があった美少年俳優ジョン・モルダー=ブラウンが演じたオカルトサスペンス映画で、こちらの映画も現代ではカルト的な作品として知られています。その後も映画、テレビの監督、プロデューサーとして活躍され、2006年にテレビムービーとして「スパニッシュ・ホラー・プロジェクト」シリーズ6作を監修されています。2019年に83歳でお亡くなりになれられています。
主演のトムを演じたルイス・フィアンダーはオーストラリア出身の俳優。オーストラリアからイギリスに渡り舞台で活躍。1971には、「ノックは無用」(1952年)の監督でも有名なロイ・ウォード・ベイカーが監督したハマー映画で「ジキル博士とハイド嬢」に出演されています。
トムの妻を演じたのがイギリス出身の女優プルネラ・ランサム。プルネラ・ランサムの出演で最も印象的な映画は、1967年のジョン・シュレシンジャー監督の文芸大作映画「遥か群衆を離れて」のファニー・ロビン役ではないでしょうか。この映画はジュリー・クリスティ演じる女農園主の自ら引き起こす波乱万丈半生を描いた物語ですが、その中で主人公が最初に結婚する相手テレンス・スタンプ演じるトロイの薄幸の恋人役を、プルネラ・ランサムが演じました。この映画の演技が高い評価を受けゴールデングローブ賞にノミネートされました。主にテレビで活躍されたようで「ザ・チャイルド」の出演以後は目立った出演はなく、80年代中頃には引退されてしまったようです。不安感が常に顔に出ているような線の細い美人さんです。
まとめ
反撃できない相手に地獄行き
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