夫の変な趣味「扉の陰の秘密」

フィルムノワール

妻と夫で趣味が合わないのはよくある話ですが、
大体妻は夫の趣味が嫌いです。

[原題]Secret Beyond the Door
[製作年]1948 [製作国]アメリカ
[日本公開]1949
[監督・製作]フリッツ・ラング
[脚本]シルヴィア・リチャーズ
[製作]ウォルター・ウェンジャー
[音楽]ミクロス・ローザ
[上映時間]98

主な登場人物

シリア・バレット(ジョーン・ベネット):
多くの遺産を一人で相続した女性。メキシコで一目で惹かれた男と電撃婚する。

マーク・ラムフェア(マイケル・レッドグレイヴ):
建築家。事件のあった部屋を自宅に再現してコレクションするという変わった趣味を持つ。

その他の登場人物

カロライン(アン・リヴェール):キャロル、マークの姉
ミス・ロビー(バーバラ・オニール):火傷を隠すためベールを被ったマークの秘書
エディス・ポーター(ナタリー・シェイファー):シリアの友人
リック・バレット(ポール・キャヴァナー):シリアの兄、保護者代わりだったが急死
ボブ・ドワイト(ジェームズ・シー):シリアの弁護士、リックの友人

あらすじ

両親をすでに亡くしている資産家の娘シリアは結婚も考えず遊んでいた。シリアの兄で管財人でもあるリックはシリアのことを心配しつつも急死してしまい、巨額の資産は一手にシリアの物になる。不安になったシリアは兄の友人で弁護士のボブからの告白を受け、結婚を申し込んでほしいと頼むが思慮深いボブは今は兄が亡くなったばかりで落ち着いてからと諭す。シリアは気分転換に友人のエディスとメキシコ旅行に出かけることにする。メキシコの市場で決闘騒ぎが起こり、見入っていたシリアは自分をじっと見つめる男の存在に気づく。一瞬で惹かれたシリアはカフェで男と話し、そこから2日間片時も離れたなかった。男はマークと言い著名な建築家で、建築雑誌も出版していた。明日ニューヨークに戻るというシリアにマークは彼女を抱きしめどこにも行くなと情熱的なキスをする。そのまま二人は結婚してしまうが、シリアはあまり良く知らない男との結婚に少なからず不安を感じていた。ハネムーンを満喫し、マークはシリアに有名な殺人事件が起こった部屋を再現する趣味があると話す。特に気にしなかったシリアだが、マークが急に自分の雑誌の買収話が進んでいると電報を受けたと言いそれに応じる為一人で出発するという。その間シリアに自分の実家であるレベンダー・フォールズに行けと言うのだ。マークはシリアを残しすぐに出発してしまった。落ち込むシリアにメイドが電報は来ていなかったと伝えるがシリアにはわかっていた。マークはありもしない買収話をして自分からいなくなってしまったのだと。マークの愛が失われたと落ち込みながら寝付けないでいると、未明にマークから手紙が届き、実家で待っていると書かれていた。意気揚々とレベンダー・フォールズに到着したシリアだったが、そこで待っていたのはマークではなく、マークの姉キャロルだった。

どんな映画?

名匠フリッツ・ラングがハリウッドで製作・監督したフィルム・ノワール調のスリラー映画です。名プロデューサーであったウォルター・ウェンジャーが妻で主演のジョーン・ベネットと共に立ち上げたプロダクションで製作されています。

唯一の肉親の兄を亡くし莫大な遺産を相続したシリア
気分転換の為友達とメキシコへ旅行に

そこで出会ったマークとたった数日で電撃婚
ほんとに大丈夫?

直感を信じラブラブのシリアだったが
マークは何だか怪しい感じ。
結局ハネムーンもそこそこにシリアは
一人でマークの実家に行くことに

そこにいたのはマークの姉キャロル。
そして秘書のミス・ロビーと息子のデビッド

ん?息子???

亡くなった前妻の子供だというけど
結婚してたなんて聞いてない!!!
でもまあ シリアはあんまり気にしていない様子。

それよりも気になるのは夫の変わった趣味
なんとマークは
女性が殺害された有名な事件現場を
自宅に再現してコレクションしているのです。
ってなにそれ?

そして誰にも見せない鍵のかかった部屋があって…

秘密の部屋があるというプロットはペローの童話「青ひげ」を彷彿とさせます。また、怪しい秘書の存在や夫の実家、ラストの展開はヒッチコック監督の「レベッカ」(1940年)やスピード婚した夫が財産狙いではと不安になるのは同じくヒッチコック監督の「断崖」(1941年)を想起させます。
ですが、どれも中途半端でスリラー感もいまいちなものになってしまっていること。キャストの割にはどの人も活かしきれておらず残念です。ただ、事件現場をコレクションするという発想はなかなか面白いなあと感じさせる一本です。

スタッフ・キャスト

監督はオーストリア出身、ドイツで数々の先駆的作品を発表した巨匠フリッツ・ラング。ドイツでサイレント映画の傑作「ドクトル・マブゼ」(1922年)や「メトロポリス」(1927年)などを監督し、ドイツから亡命後はハリウッドなどで活躍。ウォオルター・ビジョン、ジョーン・ベネット主演の「マン・ハント」(1941年)、レイ・ミランド主演の「恐怖省」(1944年)、エドワード・G・ロビンソン主演、再びジョーン・ベネットを起用した「飾窓の女」(1944年)、「飾窓の女」の成功を受けて翌年同じキャストで撮影された「スカーレット・ストリート」(1945年)など1940年代は傑作フィルム・ノワールを量産し、この「扉の陰の秘密」(1948年)もその作品群に繋がる一本です。

当時のジョーン・ベネットと夫で製作のウォルター・ウェンジャーはハリウッドの有名プロデューサー。1920年代から映画製作を手掛け、ジョン・フォードの名作西部劇「駅馬車」(1939年)を製作。フリッツ・ラングとは「暗黒街の弾痕」(1937年)や妻ジョーン・ベネットを起用した「スカーレット・ストリート」(1945年)を担当。アルフレッド・ヒッチコック監督作品では「海外特派員」(1940年)に名前を連ねています。
1951年に妻ジョーン・ベネットとエージェントの不倫を疑ったウェンジャーがエージェントに発砲してしまうスキャンダルを起こしていまします。
そんな事件にも関わらず離婚はせず、その後はドン・シーゲル監督の異色SF映画「ボディ・スナッチャー」(1956年)やスーザン・ヘイワードがアカデミー賞主演女優賞を受賞した「私は死にたくない!」(1958年)とカルト作、名作を手掛けましたが、20世紀フォックスを破滅に陥れた「クレオパトラ」(1963年)によって自らも転落していきました。

主演のジョーン・ベネットはアメリカ人女優。美少女からファム・ファタール、優しいお母さん、吸血鬼おばさんまで非常に長いキャリアで知られています。中でも1944年に出演したフリッツ・ラング監督の「飾窓の女」、翌年の「スカーレット・ストリート」の出演によりフィルム・ノワールのファム・ファタールとしての地位を確立。1947年にジャン・ルノワールが監督した「浜辺の女」や1949年にマックス・オフュルス監督の「無謀な瞬間」などのフィルム・ノワールに出演しました。しかし前述した夫ウォルター・ウェンジャーが起こした事件により名実共にファム・ファタールとなってしいました。すると今度は「花嫁の父」(1950年)に代表する子供を見守る優しいお母さん役を確立しました。可愛らしい顔立ちの悪女は最強ですね。

主人公が結婚する謎の男マークを演じたのはイギリスの名優マイケル・レッドグレイヴ。この映画がハリウッド進出第一作目となります。イギリスではアルフレッド・ヒッチコック監督の「間諜最後の日」(1936年)にちょこっと出演。その後「バルカン超特急」(1938年)に主演し世界的に知られるようになりました。その後はイギリス、ハリウッドで多くの映画に出演されていました。ヴァネッサ・レッドグレイヴ、リン・レッドグレイブの父親としても知られています。

マークの姉を演じたアン・リヴェールはアメリカ人女優。主に母親役で有名で1944年の「緑園の天使」ではアカデミー賞助演女優賞を受賞。「陽のあたる場所」(1949年)でも主演のモンゴメリー・クリフトの母親役を演じていました。
秘書のミス・ロビーを演じたバーバラ・オニールは大作映画「風と共に去りぬ」(1939年)で主人公スカーレット・オハラの母親役を演じたことで有名すが、当時のスカーレットを演じたヴィヴィアン・リーと3歳しか離れていなかったそうです。またオットー・プレミンジャー監督の「疑惑の渦巻き」(1949年)や「天使の顔」(1952年)などのフィルム・ノワールに出演しています。

まとめ

悪趣味にも程があるで地獄行き

コメント

タイトルとURLをコピーしました