偏見と逆恨み「復讐鬼」

フィルムノワール

グレーの瞳のリチャード・ウィドマーク。
カラーでないのが残念です。

[原題]No Way Out
[製作年]1950[製作国]アメリカ
[日本公開]劇場未公開
[監督・脚本]ジョセフ・L・マンキーウィッツ
[音楽]アルフレッド・ニューマン
[上映時間]106

主な登場人物

ルーサー・ブルックス(シドニー・ポワチエ):
黒人青年医師。優秀な医師で、ガソリンスタンドを襲撃し警官に撃たれて収容されていた兄弟の患者を任される。

レイ・ビドル(リチャード・ウィドマーク):
死んだ男の兄。弟が死んだのはルーサーの医療ミスだと信じ、執拗に責めたてるチンピラ。

イーディス・ジョンソン(リンダ・ダーネル):
ジョニーの元妻。ジョニーが死んだと知らされ、ルーサーからの解剖の許可を拒む。

その他の登場人物

ウォートン医師(スティーヴン・マクナリー): チーフレジデント
ルーサーの妹(ルビー・ディー)
妹の夫(オジー・デイヴィス)

あらすじ

郡病院の黒人青年医師ルーサーは州免許という難関を突破直後、刑務所病棟の怪我人二人を任される。運ばれてきた男二人は兄弟で兄はレイ、弟はジョニー、ガソリンスタンドを襲った際、警官に足を撃たれていた。レイははじめから黒人のルーサーに対して差別的な発言を繰り返し。弟のジョージの様子がおかしいことに気づいたルーサーは、脳腫瘍を疑い髄液検査(脊髄穿刺)を行うがそのまま死亡してしまう。隣のベッドで見ていたレイは弟が黒人に殺されたと叫び続けた。ルーサーを優秀な医師だと目をかけて指導に当たっていたウォートン医師だったが診ただけでは判断がつかず、解剖が必要だと伝える。自分に医療ミスがあったと疑われているのではとつめよるルーサーとウォートン医師との会話を見ている男がレイの部屋に身ぶりで何かを伝えた。男はレイの末の弟ジョージで聾唖者だった。解剖するためには家族の同意が必要となるが、ジョージの手話を見た兄のレイが同意するはずもなかった。そのままレイの担当を続け、彼の脚の処置をするルーサーだがお互いの不信感は増すばかりだった。

どんな映画?

変なホラーみたいな邦題になっていますが、中身は人種差別を取り扱った社会派フィルム・ノワール作品です。
原題のNo Way Outは追いつめられるという意味で、1987年のケヴィン・コスナー主演の「追いつめられて(No Way Out)」とは全く別物です。

難関を突破して郡病院の医師として
勤務することになった黒人青年のルーサーでしたが、早速やっかいな患者を扱うことになります。

刑務所病棟に運ばれた患者は
ガソリンスタンドを襲撃して負傷した
貧乏白人兄弟でした。

足を撃たれた兄のレイはルーサーに対して差別的発言を繰り返す始末。
リチャード・ウィドマークのあの目で
差別用語連発です。
しかし、弟のジョニーの様子に脳腫瘍を疑ったルーサーは髄液検査を行うが
ジョニーは死亡してしまいます。

自分の無実のためジョニーの解剖を
行いたいとレイに依頼するが
ルーサーが殺したと疑わないレイは
取り合いません。

優秀なルーサーを差別なく接するウォートン医師は解剖の許可を得るため
ジョニーの元妻に会いに行きますが
彼女もまた貧しい地域で喘いでいる女性でした。

やがて白人対黒人の暴動にまで発展し…

トップクレジットはリチャード・ウィドマークですが、役としては本当にただのクソ野郎で、実質的主演はシドニー・ポワチエです。
1950年に人種問題を扱った真面目で価値のある映画です。

スタッフ・キャスト

主演級の扱いの黒人青年医師を演じたのは、これが映画デビュー作のシドニー・ポワチエ。黒人俳優の先駆者として伝説の俳優さんです。知的な雰囲気を持ち強さと優しさを持ち合わせる役が多く、1955年のグレン・フォード主演の問題作「暴力教室」の学生役、そのまんまですがトニー・カーティスと手錠で繋がれたまま脱獄する「手錠のままの脱獄」(1958年)、シドニー・ポラックの実話を元にした社会派ドラマ「いのちの紐」(1965年)に主演。1967年には代表作と言われる三本に立て続けに出演、「暴力教室」で問題児を演じたシドニー・ポワチエが今度は問題のある学校で熱血教師を演じる「いつも心に太陽を」、ロッド・スタイガーと共演した「夜の大捜査線」、大御所スターを相手に黒人医師を演じた「招かれざる客」です。1963年の「野のユリ」で黒人俳優として初めてアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。長く白人が好む黒人象を演じてきたと批判もありますが、シドニー・ポワチエが果たしてきた功績は計り知れないものです。ちなみに今の奥さんは、ロベール・アンリコ監督の「冒険者たち」(1967年)でヒロイン役を演じていた美人女優のジョアンナ・シムカスです。現在93歳で最近あまりお目にかかれないですね〜

黒人医師を追い立てる白人チンピラを演じたのがリチャード・ウィドマーク。銀色のような紙に浅黒い顔、鋭い眼光にグレーの瞳と存在感半端ないですが、この頃はまだモノクロ映像なので特徴が活かしきれていませんが、活動初期のいかれた犯罪者役は大変評価されました。1947年にヘンリー・ハサウェイ監督のノワール映画「死の接吻」で、車椅子の老婆を階段から突き落とすという冷酷無比な殺し屋でデビュー。その後も「情無用の街」(1948年)、「街の野獣」(1950年)、「暗黒の恐怖」(1950年)、マリリン・モンローと共演した「ノックは無用」(1952年)、「拾った女」(1953年)など多くのフィルム・ノワールに出演。刑事ものや西部劇、戦争映画と主要人物として出演し存在感を発揮しておりました。

ヒロインを演じたリンダ・ダーネルは1940年代に活躍したグラマー女優。1941年に「血と砂」でタイロン・パワーの妻役で出演、その後は西部劇などに出演。エキゾチックな美貌で、特に1946年の傑作西部劇「荒野の決闘」で、ドク・ホリデーの情婦チワワ役は強い印象を残しました。マンキーウィッツ監督作品は1949年の「三人の妻への手紙」に続いての出演でした。

まとめ

偏見で地獄行き

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