母と娘と銃声と「ミルドレッド・ピアース」

フィルムノワール

甘やかすのも虐待の一種だと思いますヨ。

[原題]Mildred Pierce
[製作年]1945[製作国]アメリカ
[日本公開]劇場未公開(テレビ放映あり)
[監督]マイケル・カーティス
[原作]ジェームズ・M・ケイン
[脚本]ラナルド・マクドゥガル
[製作]ジェリー・ウォルド
[製作総指揮]ジャック・L・ワーナー
[音楽]マックス・スタイナー
[上映時間]111

その他の登場人物

ミルドレッド・ピアース(ジョーン・クロフォード):
元専業主婦だが、離婚後起業し事業で成功する。二人の娘の母親。

ヴィーダ・ピアース(アン・ブライス):
ミルドレッドが溺愛する長女。高慢で欲の強い女性に育ってしまった。

その他の登場人物

ウォリー・フェイ(ジャック・カーソン):不動産業者。アルバートの元共同経営者
モンテ・ベラゴン(ザカリー・スコット):金持ちのプレイボーイ。ミルドレッドの二番目の夫
アイダ・コーウィン(イヴ・アーデン):大衆食堂のベテランウィトレス。ミルドレッドのレストランを手伝う。
バート・ピアース(ブルース・ベネット):ミルドレッドの元夫

あらすじ

深夜、成功を収めていた女実業家ミルドレッドの海辺の家から数発の銃声が響いた。男が拳銃で撃たれミルドレッドと一言残してコト切れた。桟橋を一人歩くミルドレッドは涙を流し海に飛び込もうとしていた所を警官に止められた。その場を立ち去るとウォリー・フェイに声をかけられ、彼に家までを送ってもらう。ミルドレッドは遺体が転がる部屋に、ウォリーを入れて二人で飲み始める。ウォリーがミルドレッドを口説き始めようとすると、ミルドレッドはグラスを落とし着替え来ると言ってその場を立ち去った。その後バタンとドアを閉める音がし、異変に気づいたウォリーが外に出ようとすると扉は固く閉ざされていた。ミルドレッドは足早に家から立ち去っていた。ウォリーは出口を求め、部屋を探し回るが、そこでミルドレッドの2番目の夫ベラゴンの遺体を発見する。まずいと思ったウォリーは椅子でガラスを叩き割り、ベランダから逃走しようとするが警察に捕まってしまう。ミルドレッドの元には警察が来ており、娘のヴィーダは心配する。警察署に連れてこられたミルドレッドは、そこでアイダ・コーウェンと元夫のバートと再会する。警部の部屋に呼ばれたミルドレッドは、夫が亡くなったと聞かされる。しかしすぐにミルドレッドの容疑は晴れたと言われる。不審に思ったミルドレッドは容疑者は誰かと問うと、元夫のバートが部屋に通され、彼ではないと否定する。しかし容疑は固まったとする警部に、ミルドレッドはいかに彼が誠実な人間だったかを語り始めた。17歳でバートと結婚したミルドレッドは、二人の娘を持つ平凡な主婦だった。しかし、不動産業をウォリーと始めたバートが、建売の景気が急激に悪化し、ウォリーとの共同経営を解除し職を失うことになった。ケーキ作りが得意なただの専業主婦のミルドレッドは、娘たちを贅沢に育てることに夢中になり、姉のヴィーダは高慢になって行き、妹のケイは活発で男の子と遊ぶことが好きな子供だったがバレエや女の子らいしいことを強要していた。バートは無職の引け目や、子育ての価値観が次第にミルドレッドと合わなくなっていると感じ、ミルドレッドの方ではバートと近所の未亡人ビーダーホフ夫人との関係を疑い二人の関係は修復できない程悪化していた。結局バートが一人家を出ていくことになった。

どんな映画?

犯罪小説「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(1934年)の原作者で有名なジェームズ・M・ケインの原作小説「ミルドレッド・ピアース」を、原作にない犯罪要素を追加してノワール調にアレンジしてマイケル・カーティス監督が映画化。この映画で、主演のジョーン・クロフォードがアカデミー賞主演女優賞を獲得しました。

深夜に響く銃声
レストラン経営で成功した
ミルドレッド・ピアースは
知り合いの不動産業者ウォリーに
呼び止められ海辺の家に
連れてきます。

下心があったウォリーは
ミルドレッドを口説き始めますが
かわされたどころか家に
閉じ込められてしまいます。
すぐにミルドレッドはそこから逃走。
残されたのはウォリーと

ミルドレッドの2番目の夫の遺体!!

やられた 
と思ったウォリーは
ガラスを叩き割って逃走を図りますが
すぐに通りかかった警官に捕まって
しまいます。

警察に呼ばれたミルドレッド
しかし、夫殺しの容疑で逮捕されたのは
前の夫のバートでした。
彼ではないと主張するミルドレッド。

ミルドレッドは警部に4年間の
自分の話を始めるのですがー

わがままに育ってしまった娘のヴィーダ。とうとう母親ミルドレッドに手を上げてしまう。

それまでMGMに所属していたジョーン・クロフォードでしたが、この頃人気に翳りが見え始めていました。ワーナーに移籍後第一作目として演じたミルドレッド・ピアースは、原作にはないノワール調のエピソードを加え映画は興行的に成功を収めます。当時40歳のジョーン・クロフォードでしたが、まだまだ美しさの残るお年頃。さらにこの映画は、ジョーン・クロフォードにアカデミー賞主演女優賞をもたらしました。

映画の「ミルドレッド・ピアース」は、原作にあった1930年代の大恐慌の最中の設定を無くし、新たに殺人が加えられています。どちらにせよ戦中の当時のただの専業主婦が、離婚後一人で生計を立てていくことの困難さと、同時にその仕事を卑下する長女との関係など、女性の生き方の問題を先駆けているように思います。クズな男たちを利用しながらのし上がるミルドレッド。上流階級への憧れを全て娘に託し、金や物を与えるのが愛情だと勘違いしていく母親。それと比例してわがままで自分勝手で強欲になっていく長女。聞き分けのいい次女は蔑ろ。経済的な成功の果てに得たものは一体何だったのか?

より原作に近いストーリーで映像化されたのが、2011年にミルドレッド・ピアースをケイト・ウィンスレットが演じたテレビシリーズ「ミルドレッド・ピアース 幸せの代償」になります。

スタッフ・キャスト

監督のマイケル・カーティスはハンガリー・ブダペスト出身の映画監督。1942年の「カサブランカ」の監督として有名ですが、職人肌の監督として多くの映画作品を残されています。1933年にスペンサー・トレイシー、ベティ・デイヴィス主演のフィルム・ノワール「春なき二万年」を監督。その後、ウィリアム・パウエル、メアリー・アスター主演の素人探偵もの「ケンネル殺人事件」(1933年)、「キングコング」(1933年)の出演でも知られているフェイ・レイが出演した怪奇映画「肉の蝋人形」(1933年)、ボリス・カーロフが主演した怪奇映画「歩く死骸」(1936年)、ジェームズ・キャグニー主演のギャング映画「汚れた顔の天使」(1938年)この映画でアカデミー賞監督賞にノミネートされました。そして1942年にハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン主演の名作戦争メロドラマ「カサブランカ」を監督。この映画でアカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞を受賞しています。

ジョーン・クロフォードの長女役を演じたのは当時16歳のアン・ブライス。1945年に出演した「ミルドレッド・ピアース」で、傲慢娘ヴィーダを演じ本格的に映画デビュー。この演技で助演女優賞にノミネートされます。その後、1947年にジュールス・ダッシン監督、バート・ランカスター主演のフィルム・ノワール「真昼の暴動」に出演。1940年代、50年代にミュージカル映画などで活躍。1957年にマイケル・カーティス監督のヘレン・モーガンの生涯を描いた「追憶」で、主演。この映画でポール・ニューマンと共演していますが、この映画が最後の映画出演となりました。

ミルドレッドに言い寄る不動産業者ウォリーを演じたのはカナダ出身、アメリカ合衆国で性格俳優として活躍したジャック・カーソン。ノンクレジットで「暗黒街の弾痕」(1937年)、「赤ちゃん教育」(1938年)、「スミス都に行く」(1939年)などに出演。その後もアルフレッド・ヒッチコック監督の唯一のコメディ映画「スミス夫妻」(1941年)やラオール・ウォルシュ監督の「いちごブロンド」(1941年)、フランク・キャプラ監督のブラックコメディ「毒薬と老嬢」(1944年)、リチャード・ブルックス監督の「熱いトタン屋根の猫」(1958年)などに出演されています。

この映画では元メダリストで「黄金」(1948年)、「ミステリー・ストリート」(1950年)、「突然の恐怖」(1952年)などにも出演したブルース・ベネットや「グリース」(1978年)で校長先生を演じたイヴ・アーデンなどが出演しています。

まとめ

娘は母親の思い通りにならないで地獄行き

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