偽りの人生「悲しみは空の彼方に」

ドラマ

実年齢をサバ読んだりするのって
やっぱり若い方が有利だからですよね?

[原題]Imitation of life
[製作年]1959[製作国]アメリカ
[日本公開]1959
[監督]ダグラス・サーク
[原作]ファニー・ハースト
[脚本]エレノア・グリフィン/アラン・スコット
[製作]ロス・ハンター
[撮影]ラッセル・メティ
[音楽]フランク・スキナー
[主題歌]「Imitation of life」
(作曲)サミー・フェイン
[上映時間]125

主な登場人物

ローラ・メレディス(ラナ・ターナー):
売れないモデルをしながら夫の死後幼い娘を育てるシングルマザー。女優を目罪している。

アニー・ジョンソン(ダン・オハーリー):
黒人女性。白人男性との間の子供サラ・ジェーンの母親。ローラにメイドとして置いて欲しいと頼む。

その他の登場人物

スティーヴ・アーチャー(ジョン・ギャヴィン):ローラの恋人
スージー(サンドラ・ディー):ローラの娘
サラ・ジェーン(スーザン・コーナー):白人に見えるアニーの娘
アレン・ルーミス(ロバート・アルダ):エージェント
デヴィッド・エドワーズ(ダン・オハーリー):劇作家
フランキー(トロイ・ドナヒュー):サラ・ジェーンの白人の彼氏
合唱団のソリスト(マヘリア・ジャクソン)

あらすじ

1947年のコニーアイランド謝肉祭。人でごった返す海水浴場でローラは娘のスージーが迷子になり、必死で探していた。一方黒人のアニーはスージーを保護しており、アニーが連れていたスージーと同じ年頃の少女サラ・ジェーンと一緒に遊ばせていた。ローラはアニーに礼を言い、アニーは自分が身の回りの世話をするため雇ってくれないかと売り込んだ。それではサラ・ジェーンと別れることになると話すと、アニーは彼女は自分の娘で父親が白人だったため白人のように見えるのだと言う。その頃のローラには使用人を雇う余裕はなかった為一度は断るが、行く宛がないという二人を自宅に連れて帰る。ローラはモデル登録をしており、ちょうど仕事が入るがなかなかうまくいかない。それでもアニーは自分が家事をこなしサポートすると住み込みで働くことになる。海でカメラを持っていた男性スティーヴがその時の写真を持ってローラの家を訪ねてくる。女優を目指しているというローラに、彼女を撮った写真を見せて食事に誘ってきた。翌日レストランで自分は未亡人で、女優になる夢を叶える為にNYに来たとスティーヴに話していると、ちょうどオーディションの話を聞きつけ慌てて向かう。アポイントメントはなかったがハッタリでプロデューサーのルーミスと会うことに成功する。ローラを気に入ったルーミスはその夜パーティーに誘う。夜はスティーヴと約束していたが自宅に断りの電話を入れ、夜にルーミスと会うが彼が自分を安く売り出そうとすることに怒って帰ってしまう。ローラは家にいたスティーヴに涙ながらにプライドが傷つけられたことを訴えるが、スティーヴは夢を諦めるなと励ます。白人ばかりの学校に通っていたサラ・ジェーンのクラスに、忘れ物を届けに来たとアニーが傘を持って来る。アニーがサラ・ジェーンに近づくと、サラ・ジェーンは教室を飛び出してしまう。雨の中、サラ・ジェーンは母親に黒人だとわざわざ言う必要はない恥ずかしいと言い放った。ずぶ濡れのまま戻ってきた二人にローラが何事かと尋ねると、アニーはサラ・ジェーンが学校で白人だと偽っていたと話す。ローラはサラ・ジェーンに肌の色は関係ないと諭すが、サラ・ジェーンはもう学校に行かないと部屋に閉じこもってしまう。アニーは自分を偽るサラ・ジェーンに不安を感じていた。

どんな映画?

メロドラマの巨匠ダグラス・サーク監督が1935年の映画「模倣の人生」を、1950年代当時の現代に変えてリメイク。ラナ・ターナーを主演に、人種問題、女の友情、サクセスストーリー、母娘問題を扱ったメロドラマになっております。

1947年のコニーアイランド
海岸で迷子になった娘のスージーを
必死で探す母親のローラ
黒人女性のアニーが保護してくれており
少女とスージーが遊んでいます。
少女はサラ・ジェーンと言い
白人の少女のようでした。

ローラはてっきりアニーは彼女の
メイドだと思っていたが
サラ・ジェーンは自分と白人男性の間に
できた自分の娘だというのです。
アニーはローラにメイドとして
雇って欲しいと頼みます。

未亡人のローラには舞台女優になる
夢がありましたが
まだ大した仕事もなく
メイドを雇う余裕がないと
断ろうとしますが
行く所がないという母娘に
同情し一緒に帰ります。

ちょうど浜辺で知り合った男性
スティーヴと仲良くなったローラ
アニーが家事をするようになってから
ローラは自ら女優のチャンスを掴みます。
スティーヴのプロポーズを
断り女優の仕事に集中するローラ。

あっという間に11年
押しも押されぬ大女優になったローラ
相変わらずメイドとして
側に寄り添うアニー
でも美しく成長したサラ・ジェーンは
そのままではいられずー

白人として生きていたいと家出を繰り返すサラ・ジェーン

原作はアメリカ合衆国の女流小説家ファニー・ハースト。残念ながら現在では忘れられた作家としてほぼ絶版になってしまっているそうですが、生涯を通じて女性やアフリカ系アメリカ人の平等な権利を支援する活動を行なって来た人物です。また、映画原作では「模倣の人生」の他に、プリシラ・レイン姉妹が出演した「四人の姉妹」(1938年)、シャルル・ボワイエ主演の「裏街」(1941年)、ジェーン・クロフォード主演のメロドラマ「ユーモレスク」(1946年)などがあります。

ハーストのベストセラー小説を、1935年に映画化した「模倣の人生」は、アメリカ映画史上で黒人女性の社会問題を取り扱った初の映画とされています。1935年版の映画では、クローデット・コルベールが黒人女性の作るパン・ケーキによってビジネスに成功する白人の女主人公を演じています。1935年の時代背景として、ジム・クロウ法と呼ばれる有色人種と白人の人種分離法が施行されていました。 「悲しみは空の彼方に」では、親切な白人女性と献身的で敬虔な黒人女性とその白人に見える娘のプロットを、1950年代後半に時代を置き換えリメイク。女主人公を女優として成功するという設定に変更し、ラナ・ターナーの起用によりそれが実現した言われています。成功するに連れラナ・ターナーの衣装のゴージャスさもこの映画の見どころの一つです。 また、この頃の時代背景として、1954年のブラウン対教育委員会裁判や、1955年のモンゴメリー・バス・ボイコット事件などで公民権運動への機運が高まっていましたが、依然としてジム・クロウ法は存在したままでした。キング牧師のワシントン大行進はもう少し先のお話。

現代でもまだまだ存在する、黒人であることによる差別と偏見、暴力に晒される危険。 この映画に登場するサラ・ジェーンは、黙っていれば白人に見える少女でしたが、黒人の母親から生まれたことを恥じ、母親に辛く当たってしまいます。 そして美しく成長したサラ・ジェーンは白人女性として生きたいと思うようになります。こういった黒人と白人のハーフで、肌が白く白人に見える人物が白人になりすますことを「パッシング」(passing)と言うそうです。ぱっと見わからなくても、ワンドロップ・ルールにより黒人の血が一滴でも流れていれば黒人と見なされて同じように差別の対象となってしまいます。

偽りの人生でも、白人として生きようとするサラ・ジェーンでしたが、「自分の娘です!」と言い回ってことごとく潰しにかかる母の愛(?)。アニーは善良な人物として描かれ、サラ・ジェーンは白人になりすますけど白人の彼氏にバレてボコボコにされるし、際どいショーに出演するような仕事しかできないという悲惨な目にあいます。ローラやスージーは差別などしない善良な白人の立ち位置ですが、黒人差別に対しては想像力を持たず割と無関心です。

サラ・ジェーンに自分を偽らず、黒人女性として生きろと諭すアニー。ラストに号泣するサラ・ジェーンを見ると涙腺崩壊です。この映画がダグラス・サーク監督にとって最後のハリウッド映画になりましたが、現在ではメロドラマの傑作の一つとされています。

「悲劇的なムラート」が登場する映画は、エリア・カザン監督の「ピンキー」(1949年)、イギリス映画の「サファイア」(1959年)、ジョン・カサヴェテス監督の「アメリカの影」(1960年)、カール・フランクリン監督の「青いドレスの女」(1995年)、ロバート・ベントン監督の「白いカラス」(2003年)、最近ではレベッカ・ホールが監督した「パッシング 白い黒人」(2021年)などがあります。

出演陣は何かと豪華で、特にローラの娘役を演じたサンドラ・ディーは、この後「ギジェット」(1959年)や、「避暑地の出来事」(1959年)などの青春映画に出演し、歌の歌詞に登場するほどアイドル的な人気を得ます。この映画にも出演しているトロイ・ドナヒューとも「避暑地の出来事」で共演し、こちらもまた青春スターとして当時絶大な人気を獲得しています。そうそうこの方1987年に大林宣彦監督の「漂流教室」にご出演されています。アニーの葬儀で歌うのは、伝説のゴスベル女王マヘリア・ジャクソン。アニーの娘サラ・ジェーンを演じたのはアメリカ出身の女優スーザン・コーナー。この映画の演技で若くしてアカデミー賞助演女優賞にノミネートされました。結婚で引退されましたが、息子さんが映画監督のポール・ワイツとクリス・ワイツです。

スタッフ・キャスト

監督はドイツ出身の映画監督ダグラス・サーク。1935年にドイツでデトレフ・ジールク名義で「第九交響楽」を監督。続いて刑務所ものの「世界の涯てに」(1936年)を監督し、その後ナチスの弾圧の為にアメリカに亡命。ダグラス・サーク名義で1943年に「ヒットラーの狂人」を監督。ハリウッドで、ジョージ・サンダースとリンダ・ダーネル主演の恋愛ノワール映画「夏の嵐」(1944年)、ジョージ・サンダースとルシル・ボールのカップリングでボリス・カーロフも登場するロマンティック犯罪映画「誘拐魔」(1947年)、クローデット・コルベール主演のノワール系の「眠りの館」(1948年)、サスペンス映画の「ショックプルーフ」(1949年)、クローデット・コルベールを主演に尼僧探偵の「丘の雷鳴」(1951年)、ロック・ハドソン主演のコメディ映画「僕の彼女はどこ?」(1952年)、バーバラ・スタンウィック主演のノワール系メロドラマ「わたしの願い」(1953年)、ロック・ハドソンとジェーン・ワイマンが初共演したメロドラマ「心のともしび」(1954年)、このあたりからメロドラマと言えばダグラス・サーク監督となり、再びロック・ハドソンとジェーン・ワイマンのカップリングのメロドラマの定番「天は全て許し給う」(1955年)を監督しています。また、ロック・ハドソン主演で元祖ソープ・オペラの「風と共に散る」(1956年)なども監督されています。

メイドのアニーを演じたのはアメリカ合衆国の女優ファニタ・ムーア。1949年のエリア・カザン監督のこちらも白人に見える黒人女性のドラマ映画「ピンキー」に看護師役で出演。その後も脇役ですが、「醜聞殺人事件」(1952年)や、グレン・フォード主演のサスペンス映画「誘拐」(1956年)、エドワード・ドミトリク監督の「荒野を歩け」(1961年)などに出演しており、この「悲しみは空の彼方に」の演技で黒人俳優としてアカデミー賞にノミネートされた五人目の俳優となっています。

ローラの彼氏役のスティーヴンを演じたジョン・ギャヴィンは、1960年のアルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」で、マリオンの恋人役で最初の方に登場しています。

まとめ

パッシングで地獄行き

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