嘘から出た邪悪な子供「噂の二人」

ドラマ

音も葉もない噂を流されて
ひどい目に合うことがよくあります。

[原題]The Children’s Hour
[製作年]1961[製作国]アメリカ
[日本公開]1962
[監督・製作]ウィリアム・ワイラー
[原作]リリアン・ヘルマン
   「こどもの時間」
[脚本]ジョン・マイケル・ヘイズ
[音楽]アレックス・ノース
[上映時間]107

主な登場人物

カレン・ライト(オードリー・ヘプバーン):
友人のマーサと女学校を立ち上げた女教師。医師のジョーと婚約中。

マーサ・ドビー(シャーリー・マクレーン):
カレンの学生時代からの親友。教師としてカレンと一緒に女学校を経営。

その他の登場人物

ジョー・カーディン(ジェームズ・ガーナー): カレンの婚約者。医師。
リリー・モーター(ミリアム・ホプキンス): マーサの口うるさい叔母。
ロザリー・ウェルズ(ヴェロニカ・カートライト): メアリーに脅迫される女生徒。
アメリア・ティルフォード夫人(フェイ・べインター):地元の有力者。二人の学校に援助をしている。
メアリー(カレン・バルキン): 噂を流す邪悪な生徒。ティルフォード夫人の孫。

あらすじ

28歳のカレンとマーサは、17歳の時からの親友。二人は共同で女学校を運営していた。金持ちの娘ばかりで手を焼くことが多かったが、経営は軌道に乗り始めていた。医師でカレンと婚約中のジョーと、とうとう結婚することを決めたカレンはマーサにそのことを報告すると、マーサは怒り出してしまった。叔母であるリリーを運営にさしつかえると辞めさせようと話している時に、カレンの結婚を嫉妬しているとリリーに指摘されマーサは声を荒げてしまう。それを生徒たちに聞かれてしまった。うそつきの問題児メアリーを謹慎させた後、祖母であるティルフォード夫人がメアリーを連れて学校に戻ろうとした時、戻りたくなかったロザリーはカレンとマーサが同性愛の関係にあるとうそをついてしまう。この話はたちまちティルフォード夫人によって保護者に広まり、娘たちを全員引き上げてしまう。

どんな映画?

この映画はアメリカの女流劇作家リリアン・ヘルマンのデビュー戯曲にして、ブロードウェイで公演されると異例の大ヒットとなった作品、「子供の時間」の映画化になります。
個人的には、邦題タイトルの「噂の二人」だとそれまでのオードリー・ヘプバーンやシャーリー・マクレーンのイメージからしてポップなロマンティック・コメディかな~という印象があったのですが実際観てみると、重たいテーマと誰も幸せにならない絶望的な展開に絶句しました。

女学校時代からの親友同士
カレンとマーサは女子寄宿学校を経営。
その名も「ライト・ドビー女学校」と二人の名字を合わせたもの。
20人の子供たちを抱え経営もやっと軌道に乗りかけたところでした。

カレンは交際していた医師のジョーと
やっと結婚を決意しますが、その反面マーサは何故だか苛立ちを隠せません。
結婚を報告したカレンに当たってしまいます。
その様子を見ている邪悪な目がありました。
生徒の中でも問題児のメアリー。

地元の有力者で学校の出資者でもあるティルフォード夫人の孫メアリーは
病的な嘘つきでカレンも対応に手を焼いていました。

そんな中メアリーは自分を擁護するためにティルフォード夫人にある讒言を耳打ちするのでした…

その言葉を間に受けたティルフォード夫人から瞬く間に噂が広まり保護者たちは次々に娘を学校から引き上げてしまうのでした。
そして訴訟に発展するのですが…

「子供の時間」はブロードウェイで上演され大ヒットした後、最初の映画化はウィリアム・ワイラー監督自身で、1936年に「この三人」(「The Three」) というタイトルで発表しました。こちらは原作の同性愛部分とカットした二人の女性が同じ婚約者を好きになってしまうという三角関係ものでしたが、満を持して再び映画化したのがこの「噂の二人」になります。四半世紀経ての再映画化ですがそれでもまだまだ規制があり同性愛がいかに厳しい目で世間に晒されているのか社会的な問題も提示されています。

原作の「子供の時間」は1810年に実際にスコットランドのエジンバラにある学校で起こった名誉毀損事件を元にして描かれています。実際の事件では二人の女教師は勝訴していますが、二人の女性の人生を暗いものにしたことは事実でした。


リリアン・ヘルマンはハードボイルド作家ダシール・ハメットと長年のパートナーとしても有名です。

平気で嘘をつく子供、偏見により事実も確認しないで嘘を間に受ける大人たち。本当の自分の気持ちに気づき絶望する女性。人を愛する事自体は誰にも非難できないはず。
非常に考えさせられる映画であります。

スタッフ・キャスト

監督の巨匠ウィリアム・ワイラーが「ローマの休日」でヒロインのアン王女役にオードリー・ヘプバーンを起用したのは1953年のこと。この映画でアカデミー賞主演女優賞を獲得したオードリーは無名の新人から大スターへ。ウィリアム・ワイラーはその後ハンフリー・ボガート主演の犯罪映画「必死の逃亡者」(1955年)、ゲーリー・クーパー主演に「友情ある説得」(1956年)、グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンが出演した西部劇「大いなる西部」(1958年)、アカデミー賞11部門のオスカーに輝いた大作「ベン・ハー」(1959年)を監督。1961年に再びオードリー・ヘプバーンを主演に掲げたのがこの「噂の二人」でした。「ローマの休日」は恋愛映画の金字塔ですがこちらは同性愛を扱った、自身が「この三人」ではできなかった挑戦的な作品でした。1966年には打って変わってロマンティックコメディの「おしゃれ泥棒」でもオードリーを主演として起用しております。

1960年代に入ったオードリー・ヘプバーンは1954年に結婚した俳優兼監督のメル・ファーラーとの間に長男を出産。その後すぐに撮影が開始されたのがオードリー・ヘプバーンの代表作の一つであるブレイク・エドワーズ監督の「ティファニーで朝食を」。映画のストーリーよりもそのファッションやブランドの方が有名ですが、オードリー・ヘプバーンが演じたのは田舎から出奔して来た人妻で職業は娼婦。「ローマの休日」からビリー・ワイルダー監督の「麗しのサブリナ」(1954年)、フレッド・アステアと共演したスタンリー・ドーネン監督のミュージカル映画「パリの恋人」(1957年)、再びビリー・ワイルダー監督と組み、ゲーリー・クーパーを相手役にしたロマンティック・コメディの「昼下がりの情事」(1957年)、社会派フレッド・ジンネンマン監督の「尼僧物語」(1959年)など清楚なイメージで出演していたオードリーが気ままな娼婦を演じることで新境地を開拓しました。そして今度は「噂の二人」で同性愛と向き合う女性という非常にテーマの重く30代になったオードリーにとっても難しい役どころでしたがその演技は高く評価されました。

オードリーの相手役にはシャーリー・マクレーン。1955年にヒッチコック監督の「ハリーの災難」で映画デビューしてから小悪魔的な可愛らしさで人気を博し、1960年にはビリー・ワイルダー監督のラブコメの傑作「アパートの鍵貸します」でジャック・レモンが夢中になる同僚のOLを演じていました。その翌年に演じた「噂の二人」の同性愛に悩むマーサという役でした。後に同性愛をテーマにしたドキュメンタリー映画の「セルロイド・クローゼット」(1995年)の中で、当時は特に考えもなく演じてしまったが、今ならマーサはもっと戦うべきだったと語っています。ご本人にとっても非常に後悔の残る難しい役だったんでしょう。

1936年の「この三人」でマーサを演じたミリアム・ホプキンスが、マーサの叔母モーター夫人を演じ、カレンを演じたマール・オベロンにもティルフォード夫人がオファーされていましたが断られ、その結果フェイ・ベンダーが演じています。マール・オベロンでしたらかなり美ババアだったのでフェイ・ベンダーの方があっていたかもしれません。
子役のロザリーを演じたヴェロニカ・カートライトはこの翌年にヒッチコック監督の「」(1963年)に出演。「SF/ボディ・スナッチャー」(1978年)や「エイリアン」(1979年)などに出演されています。

まとめ

邪悪な子供と邪悪な老人で地獄行き

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