ただせつなくて「仕立屋の恋」

サスペンス

人は恋をすると馬鹿になります。
男はいくつになっても輪をかけてアホになります♪

[原題]Monsieur Hire
[製作年]1989[製作国]フランス
[日本公開]1992
[監督・脚本]パトリス・ルコント
[脚本]パトリック・ドゥヴォルフ
[製作]フィリップ・カルカソンヌ/ルネ・クライントマン
[原作]ジョルジュ・シムノン
  「仕立て屋の恋」
[撮影]ドニ・ルノワール
[音楽]マイケル・ナイマン
[上映時間]80

主な登場人物

イール(ミシェル・ブラン):
中年の仕立て屋。向かいの家に住む女アリスに一目惚れし、堂々と覗き見。

アリス(サンドリーヌ・ボネール):
向かいのアパートに住む女。たちの悪い彼氏がいる。

その他の登場人物

エミール(リュック・テュイリエ): アリスのどーしょもない彼氏
刑事(アンドレ・ウィルム):事件解決のためイール氏を執拗に追いかける。

あらすじ

ピエレットという22歳の若い女性の遺体が茂みの中から発見された。カバンがなくなっていたが物取りの犯行とは思えなかった。刑事は近隣に聞き込みに回っており、中年の仕立屋イールの部屋にもやってきた。イールは小柄で頭は禿げ上がり独身で女にモテそうなタイプではなかった。几帳面で社交的ではないイール、唯一の楽しみは自分の部屋を暗くして向かいの若い女アリスを覗き見ること。アリスはカーテン全開で着替えていてイールに覗かれていることに、まだ気づいていなかった。アリスにはエミールという恋人がおり、彼女は彼との結婚を望んでいたがエミールは煮え切らない態度をとっていた。容疑者の1人になっていたイールは事件後犯人が乗り込んだと思われるタクシー運転手の現場検証に呼ばれ、ちょっと動きがぎこちなくなりますます刑事に疑われる。ある雷が鳴り雨が降る中、アリスは自分の部屋を覗いているイールの存在に気づく。刑事は過去にわいせつ罪で懲役刑を受けていたイールに目星を付けつきまとっていた。アパートに戻ったイールを見計らって、階段の上からアリスがたくさんのトマトを落とす。イールの足元に転がったトマトを四つん這いになって拾うアリス。イールはアリスに驚きながらそのまま部屋に入る。その後もアリスはエミールと部屋で抱き合いながらも、きっちりとイールが自分を覗いていることを確認して見せつけていた。

どんな映画?

メグレ警部シリーズで有名なフランスの作家ジョルジュ・シムノンが、1933に発表した長編小説「仕立て屋の恋」(Les fiançailles de M. Hire)の映画化になります。

若い女性の遺体が野っ原に転がっています。
担当刑事は殺された彼女にひどく同情的でした。

事情聴取に訪れたのは近所に住む
仕立て屋イール氏の住むアパートでした。

近所でも嫌われ者だというイール氏。
彼の日課は向かいのアパートに住む
若い女アリスを窓から覗き見ること。
このアリスはタッチの南ちゃんなみにカーテンも閉めずに堂々と着替えます❤️

アリスには結婚を約束するエミールという彼氏がいましたが、この彼氏が結構たちが悪い。

刑事はイール氏を疑い執拗に現場検証。まるで犯人扱いです。

ある日アリスはイール氏がのぞいていることに気づきます。
そして何故かアリスはイール氏に近付いて来て…

アリスとハゲで小柄なイール氏

ヒッチコック監督の「裏窓」ではおっさんを覗いていましたが、それが若い女性だと、意味合いがかなり違ってしまいます。ストーカーチックですがイール氏はただ彼女を見つめるだけです。

ジョルジュ・シムノン原作の「仕立て屋の恋」は、フランス語のタイトルを直訳すると「イール氏の婚約」となり、1946年に一度ジュリアン・デュヴィヴィエ監督により「パニック」というタイトルで映画化されております。こちらの「仕立て屋の恋」はデュヴィヴィエ監督作品のリメイクになります。ジュリアン・デュヴィヴィエと言えば、古典フランス映画界の巨匠で「望郷」(1937年)、「舞踏会の手帖」(1937年)、「わが青春のマリアンヌ」(1955年)など傑作揃いの大監督です。
さてデュヴィヴィエ版の「パニック」ですが、なぜこんなタイトルかというと群集心理の恐ろしさを描いている作品だったから。主人公のイール氏は脅迫まがいにアリスに近づいてくるし、アリスはそんなに悪い女じゃない。変人のイール氏にあまり感情移入できないサスペンス映画仕立てでした。
それを孤独で偏屈な仕立て屋のイール氏の純粋かつ変態的な恋心に焦点を当てて作られたのが、ルコント版「仕立て屋の恋」です。匂い嗅いだり座っていた所にスリスリしたりとかやってることは小学生並みですが…

本家「パニック」とは全く違った味わいになった「仕立て屋の恋」。
見つめるだけしかできなかった中年男。裏腹に近づいてくる若い女。
例えそれが罠だとしても…

ただ、ただ切ないのです。

スタッフ・キャスト

監督のパトリス・ルコントはフランス出身。この映画の翌年に監督、脚本した作品「髪結の亭主」(1990年)は日本で初めて公開されたルコント作品で、話題になりヒットしました。1994年には再びほろ苦い官能映画「イヴォンヌの香り」、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドが共演した「ハーフ・ア・チャンス」(1998年)、ヴァネッサ・パラディが主演し話題になった「橋の上の娘」(1999年)など、美しい映像とともに人生の悲喜交交や複雑な恋愛感情などを描くことに長けています。

イール氏を演じたミシェル・ブランはフランス出身の性格俳優兼脚本家兼映画監督で、マルチな才能を発揮しています。初期には1976年のロマン・ポランスキー監督・主演の「テナント/恐怖を借りた男」などに脇役で出演。1986年のベルトラン・ブリエ監督の「タキシード」の出演で注目され、この映画での演技も高く評価されました。個人的には2004年のフランスで人気の女流作家ナディーヌ・モンフィス監督作品「マダムと奇人と殺人と」の刑事役の印象が強いです。小柄でハゲと言うなかなか恋愛映画の主演になりにくい風貌がよりリアルでした。

アリスを演じた、当時期待の若手女優だったサンドリーヌ・ボネール。1987年のモーリス・ピアラ監督の「悪魔の陽の下に」や、1995年の「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」の主人公のように表情から感情が読み取れないミステリアスな雰囲気が魅力の女優さんでもあります。

まとめ

のぞきで地獄行き

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