恩讐のはるか彼方に「上海ジェスチャー」

フィルムノワール

勘違いで恨まれることが
たまにあります。

[原題]The Shanghai Gesture
[製作年]1941[製作国]アメリカ
[日本公開]劇場未公開
[監督・脚本]ジョセフ・フォン・スタンバーグ
[原作戯曲]ジョン・コルトン
[撮影]ポール・アイヴァノ
[音楽]リチャード・ヘイグマン
[上映時間]94

主な登場人物

マザー・ジン・スリング(オナ・マンスン):
上海租界の巨大カジノの中国系女主人。裏社会の大物として恐れられている。

ポピー・スミス(ジーン・ティアニー):
本名ビクトリア。ドーソンの娘。訪れたカジノでオマルに出会い興味を持つ。

オマル(ヴィクター・マチュア):
ドクターと名乗るモグリの医者。

その他の登場人物

サー・ガイ・チャータリス(ウォルター・ヒューストン): ビクター・ドーソン/カジノ買収、ビクトリアの父親
デキシー・ボメロイ(フィリス・ブルックス):ショーガール
アマ(マリア・オーペンスカヤ): マザーの側近
シーザー・ホーキンズ(エリック・ブロア):松葉杖の帳簿係
人力車の車夫(マイク・マズルキ):アラブ系
バーシバル・モンゴメリー・ハオ(クライド・フィルモア):宝石鑑定士

あらすじ

その昔中国の片隅に上海という街があり、法や風習を逃れた人々が流れて来ていた。それはさながら現代のバベルの塔と化していた。戦争が渦巻く中上海はどの国にも属さない。その運命は神のみぞ知ることとなっていた。この物語は現在とは異なるものである。 さまざまな人種が集まる上海の街。今日もある女がトラブルに巻き込まれていた。その女に目をつけたのが、医者を名乗っているがモグリで胡散臭いことこの上ない男、オマルだった。オマルは女に近付きいきさつを尋ねると、泊まった宿で法外な金額を請求され無賃宿泊で訴えられているという。アメリカ人だという彼女はデキシー・ボメロイと名乗り、オマルの口利きで事なきを得た。しかしそのままで済むはずもなく、オマルはデキシーをとある場所に連れて行った。そこはマザー・ジン・スリングという女主人が経営する巨大カジノだった。そこに男に連れられて来ていたのがビクトリアという美しい娘だった。一際目立っていたビクトリアに目に留めたオマル。会計係のホーキンズが銀行監察官を出迎えた。オマルもその席に着きポーカーを始めるが突然銃声が鳴り響く。客のボリスが行き詰まってピストル自殺を試みたが失敗。騒ぎを聞きつけ女主人のマザー・ジングスリングが現れその場を収めた。マザー・ジン・スリングは監察官の席に座り一緒にポーカーを始めた。しかし監察官の目的はこのカジノを立ち退かせることだった。契約を解除し移転を要請するが、マザー・ジン・スリングは承知しない。監察官は旧正月までに警察の調査が入ると警告する。4、5週間後の旧正月までには回答すると立ち上がった。美人を紹介しようと、ビクトリアとマザー・ジン・スリングが挨拶を交わす。そこでビクトリアは自らをポピー・スミスで連れは兄だと答えるが、マザーには偽名だとお見通しだった。マザーは彼女の素性を調べるように指示するのだが。

どんな映画?

この映画はアメリカの脚本家ジョン・コルトンによる戯曲をジョセフ・フォン・スタンバーグ が監督、フィルム・ノワールの美女ジーン・ティアニーが主演し、「風と共に去ぬ」(1939年)の出演で知られているオナ・マンスンの奇抜なコスプレも見所の一つです。

大戦前の上海租界
人種のるつぼと化しカオス感満載!
そこを訪れる人間を眺める怪しい
格好をした男オマル
オマルは巨大カジノに連れ込む人間を
物色していました。

そのカジノを牛耳っていたのが
ドラゴンレディと呼ばれる女性オーナー

マザー・ジン・スリング!!

メデゥーサのように結い上げた髪
細っそい眉毛とインパクト大のお姿

興味本位で知人とそのカジノに訪れていたのが
若く美しい娘 ビクトリア。
早速彼女に目をつけるオマル。
ビクトリアも男くさいオマルに釘付け

一方 マザー・ジン・スリングは
銀行からカジノの立ち退きを迫られていました。
納得いかないマザーは買収相手の探りを入れるのですが
何と 彼女にとって因縁のある男でした!

マザー・ジン・スリングは
不気味な笑いを浮かべるのですが…

マザー主催の地獄の晩餐会で
スペシャルゲストで登場したのは!!?

この映画は、ドイツの伝説的な女優マレーネ・ディートリッヒとコンビを組んで、多くの名作映画を排出して来たジョセフ・フォン・スタンバーグ 監督でしたが、ディートリッヒと訣別してから製作された映画の中の一本となります。公開当時思いの他評価が低く、日本では劇場未公開です。 ですが、どこかマレーネ・ディートリッヒを思わせるオナ・マンスンの独特なメイクと衣装。 巨大カジノのセット。 若く美しく気品に満ちた娘がギャンブルと薬物と男に籠絡されていく様や、女性の人身売買を思わせるシーンなど不道徳でスキャンダラスな内容は今観ても衝撃的です。

人を呪わば穴二つ 
因果は巡りに巡って自分に帰る

皮肉に満ちた結末を佳作と観るか駄作と見るかは、人それぞれだと思いますが、個人的には退廃と倒錯、愛憎と報復、光と影、これぞフィルムノワール と感嘆致します。

スタッフ・キャスト

この映画で、その独特なメイクと衣装で強烈な印象を残し実質的主演のオナ・マンスン。ブロードウェイで活躍されてから映画界に進出。特に知られている役が1939年に出演した「風と共に去ぬ」のベル・ワトリングです。ベルは主人公の一人であるレッド・バトラーの愛人で娼館の女将で、オナ・マンスンの堂々とした豪胆なキャラクターによくハマっていました。1941年に出演した西部劇でジョン・ウェインと共演。最後に出演した映画がエドワード・G・ロビンソンが主演したサスペンス映画「赤い家」(1947年)でした。

クレジットで主演とされているジーン・ティアニーは、この後映画史上最も美しい女性の一人と呼ばれていました。フィルム・ノワールのファムファタールとして、1944年に出演したオットー・プレミンジャー監督の「ローラ殺人事件」で演じたローラ役が有名です。また、翌年の1945年に主演した「哀愁の湖」 ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。また、ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督の「呪われた城」(1946年)、再びオットー・プレミンジャー監督と組んだ「疑惑の渦巻」(1949年)では催眠術で操られる美人妻を演じています。そして1950年にジュールズ・ダッシン監督のイギリス映画「街の野獣」でリチャード・ウィドマークと共演、オットー・プレミンジャー監督の「歩道の終わる所」に出演しています。また、1962年にはプレミンジャー監督の「野望の系列」にも出演されています。

自称医者の怪しい男オマルを演じたのは濃い顔が特徴的な俳優ヴィクター・マチュア。1941年に「上海ジェスチャー」に出演した後、第二次世界大戦が勃発。復員後の1946年に出演した名作西部劇「荒野の決闘」で、ワイアット・アープに協力するドク・ホリデイを演じたことで知られています。翌年にはヘンリー・ハサウェイ監督のフィルム・ノワール「死の接吻」に主演。この映画ではデビューしたリチャード・ウィドマークの方が注目されてしまいました。またロバート・シオドマク監督のノワール映画「都会の叫び」(1948年)に出演。1949年にセシル・B・デミル監督の「サムソンとデリラ」ではヘディ・ラマーと共演。1952年にはジェーン・ラッセルと共演したサスペンス映画「犯罪都市」に出演。その翌年にはヘンリー・コスター監督の歴史劇「聖衣」(1953年)に出演し歴史劇でスターの地位を確立しています。

ビクトリアの父親でマザーの仇を演じたのが名優ウォルター・ヒューストン。「マルタの鷹」(1941年)の監督や「チャイナタウン」(1974年)での出演で著名な映画監督ジョン・ヒューストンの父親と知られています。1932年にジョーン・クロフォードと共演した「雨」や、1936年のウィリアム・ワイラー監督の「孔雀夫人」などの出演で知られ、1941年にはジョン・ヒューストン監督の「マルタの鷹」にも顔を出しています。1945にルネ・クレール監督により映画化されたアガサ・クリスティ原作の「そして誰もいなくなった」に出演。またジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督の「呪われた城」(1946年)にも出演しています。そして、1948年に息子ジョン・ヒューストン監督の「黄金」に出演し、この映画でアカデミー賞助演男優賞を獲得しています。

この映画では、ロシアの舞台女優で、「狼男」(1941年)のロマの老女役でも知られているマリア・オーペンスカヤが出演。
元プロレスラーのマイク・マズルキの映画デビューしています。

まとめ

恨みだけで生きてきて地獄行き

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