毒親地獄「秋のソナタ」

ドラマ

美人母と不美人娘の組み合わせは最恐です。

[原題]Höstsonaten/Autumn Sonata
[製作年]1978 [製作国]スウェーデン
[日本公開]1981
[監督・脚本]イングマール・ベルイマン
[撮影]スヴェン・ニクヴィスト
[上映時間]92

主な登場人物

シャルロッテ(イングリッド・バーグマン):
ピアニスト、エヴァの母。恋人と逃げてエヴァとヘレナ、父親を捨てた過去がある。7年ぶりにエヴァに会いに来る。

エヴァ(リヴ・ウルマン):
牧師館に住むシャルロッテの長女。恋人を亡くし落ち込んでいるであろうと思い7年ぶりに母親シャルロッテを自宅に招待する。

その他の登場人物

ヘレナ(レナ・ニマン):退行性脳性麻痺のエヴァの妹。エヴァが引き取って介護している。
ポール(グンナール・ビョルンストランド):シャルロッテのマネージャー。
ヨセフ(エルランド・ヨセフソン)

あらすじ

ノルウェーの牧師館に住むエヴァはメガネをかけ地味な感じの女性。かつては記者として活躍し本も2冊出したこともあるが、今は牧師の夫と暮らす平凡な主婦だった。エヴァは実の母シャルロッテに手紙を出し、恋人を亡くした母を慰めるべく7年ぶりに自宅へ招待した。ピアニストのシャルロッテはエヴァとは違い華やかで美しく外交的な性格だった。エヴァは母親に会えたことをことを喜んでいるがどこかぎこちなく気をつかっていた。エヴァはためらいながらシャルロッテに妹のヘレナも牧師館に来ていると告白する。すると急にシャルロッテの顔は曇り出す。実はエヴァは2年前にヘレナを引き取っていたと言う。シャルロッテは療養所から勝手に引き取ったと暗にエヴァを責めしぶしぶヘレナに会った。脳性麻痺を患っているヘレナは会話もままならず唯一エヴァが彼女の言っていることを理解できた。シャルロッテは、思いがけず今まで見てみぬふりをしていた現実に直面し苛立ちを隠せなかった。当てつけのようなことができたことに子供のようにはしゃぎながらディナーの準備をするエヴァ。きっとママは喪服を着て同情をかおうとするに違いないという予想に反して、シャルロッテは真っ赤なドレスを身にまとって現れる。シャルロッテに電話がかかり新たなコンサート依頼が入り上機嫌だった彼女は、エヴァにピアノを弾くように頼む。エヴァは拙いながら一生懸命ショパンの前奏曲を弾くがシャルロッテの顔は曇っていた。エヴァはシャルロッテに評価を頼むとシャルロッテはプロらしく自己の解釈を述べ演奏した。演奏してしるシャルロッテはをじっと見つめるエヴァだがシャルロッテの目には入らなかった。散歩をしようとエヴァを探していたシャルロッテだが、エヴァがある部屋にいるのを見つける。その部屋はかつてエヴァ夫婦の4歳で亡くなった息子の部屋だった。亡くなった時のまま時間が止まった部屋だった。

どんな映画?

スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督とこれまたスウェーデンが生んだ世界的大女優イングリッド・バーグマンが主演し、演技が高く評価され生涯通算7回目のアカデミー賞にノミネートされました。また、バーグマンが出演した最後の映画作品としても知られています。

ノルウェーで牧師の夫と牧師館でのんびり過ごす エヴァはピアニストの母親シャルロッテを家に招待します。
実に7年ぶりの再会。

地味なエヴァとは反対にシャルロッテは
美しく派手で社交的。
恋人が亡くなったのにそれほど落ち込んでいる様子もなく
遺産何に使おうかなぁといったかんじ。

かつてシャルロッテは少女のエヴァとまだ
1歳のヘレナ、父親を捨てて男と駆け落ち
した過去がありました。

その後家に戻ってきたシャルロッテでしたが
娘エヴァにとっては地獄の始まりで…

ピアノを弾くシャルロッテを見つめるエヴァ。
しかしシャルロッテの目には何も映っていないよう。

この映画のシャルロッテは、自分の娘をありままに愛せない母親でした。娘のエヴァは、母親シャルロッテに対して愛していると言っているのに本当は自分のことを嫌っていると感じていました。条件付きの愛情で娘を縛り付けられた結果、非常に自己肯定感の低い女性になっています。

自分の寂しい気持ちを母親にぶつける娘エヴァ。
誰も愛せないのに愛を乞う母親のシャルロッテ。

母と娘の間で生まれる確執や、虐待の連鎖はままあり得ることで「白雪姫コンプレックス」という言葉もある程です。母娘関係が良好な人に全く理解できないかもしれませんが、無自覚に娘の不幸を願う母親というものが存在するということ。また、その母親自身もやはり愛情のない母親に育てらたという世代間に流れる負の連鎖。最近、母娘関係で悩んでいたい娘が中年期になって生きづらさを吐露する媒体が増えた気がします。

国や年代が違えども連綿と続く母娘の確執。特に子供が少なくなって来た現代により濃厚な母娘関係が築かれている所以かもしれません。
感動というよりも感慨深い作品です。
北欧を代表する女優たちがそれぞれの立場からぶつかりあう熱演が見どころです。

スタッフ・キャスト

監督はスウェーデンが生んだ巨匠イングマール・ベルイマン。1957年に発表した長編映画「第七の封印」で世界的な名声を得たベルイマン。主演のマックス・フォン・シドーも世界的に知られるようになりそれ以後ベルイマン監督作品に欠かせない俳優となりました。同年に発表した「野いちご」は幻想的かつ感傷的な作品で高い評価を受け、ご自身の代表作の一つなとなりました。また1960年の「処女の泉」は何の落ち度もない純粋な少女が強姦された上に撲殺され、その両親によって犯人たち(子供も含む)が報復されるという衝撃的な内容で後の映画に影響を与えています。この映画は第33回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しました。また、長らくパートナー関係にあった女優リブ・ウルマンを起用多くの作品に登場させています。リブ・ウルマンとは結婚していませんが女性遍歴が多彩でその影響からか「女はそれを待っている」(1958年)、「仮面/ペルソナ」(1966年)、「秋のソナタ」(1978年)のような女性の内面をえぐるような作品も多いように思われます。2007年に89歳でお亡くなりになりましたが、活動期間も長く多くの芸術的、アート的、宗教的、現実的、サスペンス的作品を残されています。

老年に達した母親役を演じたんはスウェーデン出身の大女優イングリッド・バーグマン。多くの名作に出演してきたバーグマンですが、これが最後の映画出演となりました。この映画では、自分のピアニストとしてのキャリアや恋愛を優先させる自分勝手な母親を演じていましたが、バーグマン自身最初に結婚していた男性との間にいた長女で後に女優になったピア・リンドストロームを残して、イタリアの巨匠監督ロベルト・ロッセリーニの元に走った過去がありました。まるで実生活を投影しているかのような映画で、実際にバーグマンと長女には確執があったと知られています。後に晩年には長女と和解したようですが、「秋のソナタ」では徹底的に相容れない母娘の愛憎を描いており、リアルな毒母像を熱演しておりました。

娘役を演じたのはノルウェー出身の女優リヴ・ウルマン。監督のベルイマンとは公私共にパートナーとなり、監督の映画「仮面/ペルソナ」(1967年)、「狼の時刻」(1968年)、「恥」(1968年)、「叫びとささやき」(1972年)、「ある結婚の風景」(1973年)、「鏡の中の女」(1976年)、「蛇の卵」(1977年)、「秋のソナタ」(1978年)、「サラバンド」(2003年)などパートナー関係を解消した後もベルイマン作品には欠かせない女優さんでした。また2000年には「不実の愛、かくも燃え」を監督されています。

エヴァの子供の時代の役をイングマール・ベルイマンとリヴ・ウルマンの実の娘リン・ウルマンが演じています。現在リン・ウルマンはノルウェーの有名なコラムニスト兼文芸評論家として活躍されているそうです。

まとめ

毒親とは平行線で地獄行き

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